アバルト124スパイダー試乗レビュー!ジュリエッタ乗りによるイタリア式ロードスターの評価は?
2017/01/16
アバルト・124スパイダーに試乗してきました。
ロードスターにジュリエッタのエンジンが搭載されたモデルということで、とてもワクワクしながら乗りましたが、意外にも予想した範囲内の普通の車でした。少し残念!? 詳しくレビューします。
目次
アバルト・124スパイダーってどんな車?
アバルト・124スパイダーは、マツダ・ロードスターのイタリア車バージョンです。
ロードスターをベース(シャシーを共有)に、外装デザインやエンジンはフィアットが担当。イタリアで製造したエンジンを広島のマツダ工場に運び、マツダの工場で生産されるイタリア車です。詳しくは以下をご覧ください↓
124スパイダーにはフィアット版とアバルト版があり、アバルト版の方が高性能です。どちらも日本で生産していますが、日本にはアバルトブランドの方だけが販売されています。アバルト版に搭載されるエンジンは、同じフィアットグループのアルファロメオ・ジュリエッタに搭載されている直列4気筒1.4Lターボエンジンと同じです。170馬力・25.5kgmなので、1.5Lエンジン(131馬力・15.3kgm)はもちろん、ロードスターRFに搭載される2.0Lエンジン(158馬力・20.4kgm)よりもハイパフォーマンスです。
デザイン
エクステリアデザイン
外観の印象は思っていたよりもロードスターとは異なります。フロントもリアもロードスターでは上下も左右もグッと絞り込んでいますが、124スパイダーはしっかり盛り上がったデザインになっています。ロードスターが小さくまとめた「コンパクトスポーツカー」の雰囲気なのに対して、124スパイダーは「ミドルクラススポーツカー」な印象です。
ロードスターが初代ロードスターと同様に「小さなスポーツカー」というイメージで作られいるのに対して、124スパイダーはZ4やTTロードスターのような中型スポーツカーに仕立ててありますね。
横から見ると違いが顕著です。ロードスターは前後オーバーハングをギリギリまで詰めているのに対して、124スパイダーではゆったり作られています。実際に全長は124スパイダーの方が139mmも長いです。実際に見るとこの数値以上に長さの違いを感じます。
実際価格帯がロードスターよりも100万円程高いので、車体サイズの表現はこれで正しいと思います。
ロードスターベースの厳しさ
一方で、ロードスターとの共通部分が多いためにデザイン的に厳しかった面も多いです。マツダ・ロードスターの方は作りたい車をちゃんと作れている感じがありますが、124スパイダーはロードスターベースという枠の中でなんとかフィアット/アバルトらしさを表現した、という感じになっています。
外観で言えばドアと幌のラインがフロント/リアデザインと一致していません。フロントグリル周りの前後に伸びやかな感じを生かすのであれば、幌の後方をもっと前後に伸ばしたクーペ風スタイル、ロードスターよりむしろロードスターRFに近いラインの方がマッチすると思います。その分トランク部分が前後に狭くなると思いますが、トランクリッドがロードスターより高い分ロードスターに近いトランク容積は確保できたはずです。でも幌部分が共通である以上それはできませんでした。
タイヤが大きい
124スパイダーに標準装着されているタイヤは205/45R17。ロードスターの195/50R16に比べると、タイヤの直径は 15mm も大きいです。車体サイズがほぼ同じなので、タイヤ・ホイールの存在感が強くなっています。
タイヤ直径がロードスターより15mm大きい一方で、車体全高は2mm低いです。サスペンションやフェンダーパネルが違うので直接比較はできませんが、タイヤとフェンダーの隙間はロードスターよりも狭く感じました。歴代ロードスターはフェンダーとタイヤの隙間が広くてカッコ悪いと言われてきましたが、124スパイダーはあまり心配しなくて良さそうですよ。
ヘリテージルック
124スパイダーには、オプションとして「ヘリテージルック」が用意されています。ボンネットとトランクリッドをマッドブラックにすることで、かつての「アバルト124スパイダーラリー」を彷彿とさせるデザインにします。
ただし、ペイントで38万円、ラッピングでも23万円というかなり高額な価格設定です。ただの色分けにしては高すぎる!
インテリアデザイン
インテリアはほぼほぼロードスターと同一です。日本のスポーツカーとしては十二分にカッコ良く上質なインテリアだと思いますが、イタリアンスポーツとしては刺激というか遊び心に欠けるように思います。
違いはロードスターのS Leather Packageの合皮部分がアルカンターラになっていること、メーターの文字盤、シフトノブ、MTにスポーツモードの存在(後述)、シート、それにステアリングと肘置き(小物入れのフタ)のエンブレムくらいです。ステアリング上部が赤くなっているなどステアリングデザインはロードスターと微妙に違いますが、基本形状やスイッチ類の配置は同じです。
開発・製造コストの兼ね合いで124スパイダー専用のインテリアを作れなかったことは分かります。でもせっかくイタリア車を購入するのにインテリアが日本車そのままというのは結構残念です。全く違うデザインは難しいとは思いますが、ダッシュボードにイタリアかアバルトのモチーフをさりげなく配すとか、エアコンルーバーの中央がサソリになってるとか、ドア内張りが真っ赤だとか、そういう(良い意味で)変なところがあっても良かったのにと思います。運転中に視界に入るのはほぼ内装だけなのに、内装にイタリアを感じられるのはシートだけでは寂しいです。
メーター
メーターも基本はロードスターと同一です。
違いは、タコメーターが赤背景になっていることと、メモリの刻み方や数字のフォントだけです。124スパイダーでもロードスターと同様に「外気温」「平均燃費」などと日本語で表示されます。
非常に分かりにくいですが、レッドゾーンは6,500rpmからです。レッドゾーンの開始は、同じエンジンを積むアルファロメオ・ジュリエッタと同じです。
ロードスターのデザインについては以下の記事に詳しく書いています↓
走り
加速感
加速感はロードスターより重厚感があります。回転数を上げるとターボがかかってトルクが太くグイグイ加速します。1.5NAのロードスターが低回転から軽々と走り出すのとは対照的です。軽快感のロードスター、しっかりトルクの124スパイダーです。
ジュリエッタと同じエンジンということで、ジュリエッタとの挙動の違いが気になるところでしたが、意外にもほとんどそのままで124スパイダー向けに特別なチューニングはほとんどしていないようです。車重が軽い分ジュリエッタよりは加速性能が高いですが、それは車重のスペックから予想された範囲の変化で、「スポーツカーだからスポーツカーらしいエンジン挙動にした」というわけでは無さそうです。
アルファロメオ・MiToは、124スパイダーと同じエンジンかつスパイダーよりやや重いんですが、スパイダーよりもパワフルな走りに感じました↓
MiToやジュリエッタと同じく、極低回転域ではトルクが薄く加速が緩慢です。ターボが効くまでトルクが薄いのはダウンサイジングターボの宿命かもしれませんが、ダウンサイジングターボ車の中でもトルクの差が極端です。低回転域で省燃費走行をしようとすると扱いづらく感じるかもしれません。諦めてぶんぶん回せばいいんですが、回すとロードスターより容易に速度が上がってしまうので今度は免許が心配になるかもしれません。
スポーツモードは穏やか過ぎる
124スパイダーはMTでもモード切替があります。ロードスターにはATにのみスポーツモードがありますが、MTにはありません。
「スポーツモード」という名前とスイッチはロードスターATと全く同じですが、124スパイダーの方はアルファロメオ車に装備されているモード切替機能「アルファD.N.A.」と同じような制御でしょう。
- アルファロメオD.N.A.
- アルファロメオD.N.A.は、アルファロメオ車の走行モード切替機能です。「Dynamic」「Natural」「All Weather」の3つのモードがあり、アクセルの反応だけでなく、最大ブースト圧やパワステの強さも変化し、カタログ上の最大トルクの数値すら変わります。ジュリエッタの場合、2014年のマイナーチェンジ以前はDynamicでの走りが過敏で街乗りには疲れるレベルでしたが、マイナーチェンジ以降はやや大人しくなりました。
124スパイダーのスポーツモードは、アルファロメオ車に比べると変化の程度は(ジュリエッタのマイナーチェンジ後以上に)穏やかです。それにアルファロメオではエンジン出力だけでなく、アクセルペダルの反応速度やパワステの効きも変化しますが、124スパイダーのスポーツモードはどうやらエンジン出力を少し変化させている程度で、パワステなどへの介入はしていないようです。
せっかくモード切替があるならもっとドラスティック(過激)に変化させれば良かったのになぁと思ってしまいます。同じアバルトでも595のスポーツモードの変化が大きかった分残念です。
ただ変化の幅が小さいだけで、基本的にロードスターより遥かに速いことには変わりありません。
トランスミッション
トランスミッションはマツダ製です。特にATについては変速比/最終減速比がロードスターと完全に同一です。MTも変速比こそ異なりますが、シフトやクラッチのフィーリングはロードスターと差がありません。ロードスターのトランスミッションの評価は以下をご覧ください↓
ロードスターのMT(1.5Lと2.0Lは同一変速比)に比べると、変速比の差は数%程度です。小排気量のロードスターでは街中やワインディングでエンジンをぶん回して走ることを主眼にしたセッティングになっているかと思いましたが、ほぼ同一のようです。タイヤサイズの差があるので、124スパイダーの方がほんの少し高速側になっています。
60 km/h | 3速 | 4速 | 5速 |
---|---|---|---|
124スパイダー | 2,938 rpm | 2,251 rpm | 1,784 rpm |
ロードスター | 3,087 rpm | 2,418 rpm | 1,951 rpm |
足回り
足回りはロードスターよりもしっかりに硬めです。ロードスターのS Special Packageで硬くなる足回りよりもさらにもう一段しっかりします。現行ロードスターは特にベースの「S」だと初代の「ひらひら感」の再現を目指したのが明らか(でも初代よりはガッシリ)ですが、124スパイダーにそんな気はないので普通に「良いスポーツカーの足回り」になっています。
一方で足回りがしっかりしているためにコーナー出口でアクセルを踏み込んでもFRらしいリアが流れだそうとする感覚はあまり顔を出しません。もちろんしっかり踏み込めばFRの動きをしますが、街中の低速域ですらFRを感じられるロードスターとは違います。
車としての性能は124スパイダーの方が上になりますが、ロードスターの方が簡単にスポーツカーの雰囲気を楽しみやすくなっています。こういう所に違いを出してきていますね。
シート
シートはデザインこそイタリアンですが、設計はロードスター用のシートを流用しているようです。シートの調整機構はロードスターと同じですし、何より座った感覚がロードスターにかなり近いです。イタリア車のシートは一般に硬めが多いですが、124スパイダーは日本車的な柔らかいシートです。こういう所は日本人が噛んでいると日本的になってしまうんですね……。
実用性
基本的にはロードスターと同じです。特にロードスターの幌はノウハウの詰まった素晴らしい完成度を誇るので、それがそのまま搭載されているのは嬉しいポイントです。
一点気になったのが、トランクを開けるスイッチです。ロードスターではトランクリッドとリアバンパーが繋がったデザインになっているため、バンパー下部の押しにくい場所にスイッチがあります。
124スパイダーは3代目までのロードスターのようにバンパー上部にナンバープレートがあります。トランクリッドとの段差があるので、トランクオープナーは普通に押しやすい場所にあります。
どちらの車もデザイン優先で設計されている箇所なので結果論でしかありませんが、124スパイダーの方が日常的には使いやすいかなぁと思います。
まとめ
パワーにしても足回りにしても、ロードスターよりも上限が高くなっている分、性格がかなり違います。良く言えば限界が高く速く走れるようになった、悪く言えばスポーツカーらしい挙動を感じにくくなったと言えます。ロードスターはほとんどどんな人でもスポーツカーの楽しさを味わうことができますが、124スパイダーはそれなりにスポーツ走行のできる腕と、スポーツ走行ができる環境が無いと真には楽しめないと思いました。
124スパイダーとロードスターの価格差は国内だと約100万円です。イタリアンブランドであるという付加価値を外してしまえば、外装デザインとエンジンが違うだけの同じ車。その違いに100万円の価値があるかというと、私は100万円差の価値は無いと思います。
私の感想としては、現行ロードスターが小型軽量オープンスポーツとして超絶高度にバランスされていたのに、124スパイダーでは残念ながらそのバランスが崩れてしまっていると感じました。やはり純にイタリア車として開発しないと、イタリア車らしい面白さは表現しきれないのかな、と思います。
そしてアバルト・124スパイダーよりもアバルト・595の方がずっと面白かったですよ!