アバルト500/595試乗レビュー!面白すぎて鼻血出るかと思った!
2017/01/20
アバルト・595を試乗しました。フィアット・500の小型軽量ボディに、アルファロメオ・ジュリエッタのダウンサイジングターボエンジンを搭載した変態ホットハッチはどうでしょうか? なんじゃこれめっちゃおもしろいやん!
目次
アバルト595
アバルト・595は、フィアットのAセグメント小型車「500」(チンクエチェント,チンク)をベースに、エンジンや足回りをチューンして作ったモデルです。
アバルトは元来フィアット車をレース向けにチューニングしていました。当時はその改造技術の高さとレースでの活躍から、「アバルトマジック」と呼び讃えられました。
フィアットに買収されてフィアット内の1ブランドとなった現在でも、フィアット車をベースにしたチューニングモデルに「アバルト」の名とサソリのエンブレムが冠されています。
アバルト・500, 595, 595C, 695
フィアット・500をベースにしたアバルト車は、現在4つのモデル(グレード)に分けて販売されています。いずれも「マルチエア」と呼ばれる1.4Lガソリンターボエンジンを搭載していますが、モデルによってエンジン出力が異なるほか、ハンドル位置やトランスミッションの設定も異なります。
グレード | アバルト 500 |
アバルト 595/595C ツーリズモ |
アバルト 595 コンペティツィオーネ |
アバルト 695 ビポスト |
---|---|---|---|---|
駆動方式 | FF | |||
ハンドル位置 | 右 / 左(MTのみ) | 右 | 右 / 左(MTのみ) | 左 |
車両重量 | 1,110 kg | 1,120 kg | 1,060 kg | |
トランスミッション | 5AMT / 5MT | 5AMT | 5AMT / 5MT | 5MT |
エンジン形式 | 直列4気筒 | |||
排気量 | 1.4L ガソリンターボ | |||
最高出力 | 135ps / 5,500rpm |
160ps / 5,500rpm |
180ps / 5,500rpm |
190ps / 5,750rpm |
最大トルク | 18.4kgm / 4,500rpm |
21.0kgm / 2,000rpm | 23.5kgm / 2,000rpm |
23.4kgm / 2,000rpm |
JC08モード燃費 | 14.9 km/L (6.7 L/100km) (AMTは13.8km/L) |
14.0 km/L (7.1 L/100km) |
13.8 km/L (7.2 L/100km) (AMTは13.6km/L) |
13.5 km/L (7.4 L/100km) |
年間燃料費 | 8.1 万円 | 8.6 万円 | 8.7 万円 | 8.9 万円 |
価格 | 286 万円~ | 339 万円~ | 353 万円~ | 599 万円~ |
カタログなどでは、500/595/595Cは同一モデルとしてまとめられている一方、695は別モデルという扱いになっています。695だけはバンパーやボンネットなどが別デザインのものが使われています。
695では過去にフェラーリとコラボレーションした「トリブートフェラーリ」(570万円~)、マセラティとコラボレーションした「エディツィオーネマセラティ」(500万円~)が限定販売されたこともありました。トランスミッションはシングルクラッチ式AT(AMT)と、5速MTがあります。今回試乗した595はMTモデルなので、AMTについての評価はフィアット・500の試乗レビューをご覧ください↓
残念なのは、キャンバストップの595CにはMTが設定されていないことですね。アバルトなのですから積極的にMTを設定して欲しかったところです。
アバルト595はスポーツカー?
スポーツカーに分類できるかはやや難しいところです。車の成り立ちから考えるとスポーツカーには分類できません(Aセグメントのスポーティグレード)が、車体に対するエンジンのバランスや設計思想はスポーツカーに近いものがあります。
ベース車両からボディ形状への変更が入れられていないので、一般的にはスポーツカーには分類されないのでしょうね。プジョー・RCZやルノー・メガーヌR.S.のように別ボディになっていればスポーツカーと呼んでもいいのかもしれません。
デザイン
基本デザインはベースのフィアット・500そのものです。
後期型への切り替えは?
ベースのフィアット・500の方はマイナーチェンジを受けていて、国内向けも後期型に切り替わっています。
一方アバルトの方は国内向け仕様はまだ切り替わっていません。2017年前半には切り替わるそうなので、前期型のデザインの方が好きな場合は要注意です。特に後期型のテールランプは好みが分かれるところですからね。
本国イタリアなどのヨーロッパ各国ではすでに後期型のアバルト・595が販売されています。外観ではテールランプの他に、フロントバンパーのデザインやポジションランプ、フォグランプ周りのデザインが変更されています。
エクステリアデザイン
ほぼフィアット・500そのままです。
「595コンペティツィオーネ」では、ドアハンドルが石のようなマットなグレーになります。これがなかなかにカッコイイ。
装備表を見ると、500と595ツーリズモはクローム仕上げ(つまり光沢あり)、595コンペティツィオーネはガンメタリック、695ビポストはチタン仕上げとなっています。写真のは595コンペティツィオーネなのですが、質感はガンメタというよりチタンでした。オプションで変更されていたのかもしれませんが、確認し損ねました。
インテリアデザイン
こちらも基本は同じですが、目立って異なるのが2点。
まずメーター部分はかなり異なります。左側にタコメーター、中央にデジタル速度計が出ていてかなり見づらいです。メーターなんか見ずに感覚で走れ!と言われている気分です。速度はともかく、高性能MT車を運転するのにタコメーターが見づらいのはさすがに厳しいです。
右側の表示は走行モードによっても変わります。右側はノーマルモードだとエコゲージ、スポーツモードだとアクセル開度メーターになります。いやー普通に周囲一周タコメーターにしてくれれば良かったんですけどね。ちなみにスポーツモードだと中央にGセンサーの表示が出ます。この辺りは遊び心ですね。
アバルト・500/595/695はグレードによらずブーストメーターが別置されます。後付け感がありますが、それが逆にチューニング車らしくカッコ良くもあります。ただ、実用面で言えばブースト計の前にタコメーターが欲しいところ。後付けしたくなりますね。
もう一つはシングルクラッチ式ATの場合のシフトレバーです。まずレバーというかボタンしかありません。まぁたしかにATの場合はレバーにする積極的な理由はありませんからね。AT車はステアリングのパドルシフトが前モデル標準装備になっているので、レバーを倒す意味も無いわけです。
シート
シートは硬いです。イタリアンシートらしさが堪能できます。乗った当初こそ硬さに戸惑いましたが、しばらく乗っていると違和感はあまり感じなくなります。セミバケット形状になっているおかげでホールド感は必要十分にあります。
リクライニング機能はありますが、ダイヤル式な上にダイヤルがドア側にあるので、隙間に手を突っ込んでの操作になってかなり動かしづらいです。普段自分しか乗らないならいいのですが、家族など複数人が乗る場合は操作頻度が高いので不便ですね。でもこんな車に乗ってくれる女性(というか奥さん)はなかなかいないと思うので、実際に問題になるのは少ないのかもしれません……。
500と595ツーリズモのシートは、フィアット500と似たようなデザインのシートになっています。リクライニングダイヤルも中央側なので操作性に問題はありません。ただし、シートのホールド性は595コンペティツィオーネからは明らかに劣ります。
595コンペティツィオーネと695ビポストのシートは、刺繍が微妙に違いますが、同一形状のシートのようです。
走り
乗ったのはアバルト・595コンペティツィオーネの5MT車です。
加速感
まずはノーマルモード。低回転トルクがナンジャコレってほどにありません。本当に1.4ターボ載せているのかと思うほどにありません。たしかに同じエンジンを積むジュリエッタ(現愛車)でも低回転トルクの不足は感じていますが、ジュリエッタのノーマルモード(Naturalモード)ですらもっと走ります。595の方が軽いし、最高出力は595の方が上なのにおっかしいなー。
アバルト 500 |
アバルト 595/595C ツーリズモ |
アバルト 595 コンペティツィオーネ |
アルファロメオ ジュリエッタ |
||
---|---|---|---|---|---|
車両重量 | 1,110 kg | 1,120 kg (595Cは1,160kg) |
1,120 kg | 1,400 kg | |
最高出力 | 135ps / 5,500rpm | 160ps / 5,500rpm | 180ps / 5,500rpm | 170ps / 5,500rpm | |
最大トルク | ノーマル | 18.4kgm / 4,500rpm | 21.0kgm / 2,000rpm | 23.5kgm / 2,000rpm | 23.5kgm / 2,250rpm |
スポーツ | 21.0kgm / 3,000rpm | 23.5kgm / 3,000rpm | 25.5kgm / 3,000rpm | 25.5kgm / 2,500rpm |
※ ジュリエッタのスポーツモードはD.N.A.システムのDynamic。
でもスポーツモードにすると豹変します。ぶっ飛びます。加速感は強烈になって、イタリア人の本気が顔を出します。よくもこんな車作ってくれたものだ! おもしれぇじゃねぇか!!
アクセルの反応がかなり過敏です。MTなことも相まって、のんびりドライブなんて許されません。ぶっ飛ぶように加速するのみです。
トルクウエイトレシオは47.7 kg/kgm。86/BRZ、ロードスターRF、BMW・Z4、アウディ・TTなんかのベースモデルを上回ります。こんな強烈な加速ができるのに、見た目はオシャレなAセグメント、しかも大人4人が乗れるなんてどうかしています。
足回り
どうしてもベースのチンクに縛られているからか、足回りは相対的に貧弱に感じます。強大なパワーがあってもそれをワインディングで活かせるほどの足回りは持っていません。コーナリングではどうしても足が負けてロールが出てしまいます。
どこぞのFFスポーツのようにガッツリ硬くしてしまうというのも一つの方法でしたが、595はそうなっていません。足が負けていてコーナリング速度が落ちてしまうという解釈もできますが、足が負けている分暴れます。そしてこれが595の面白さでもあります。コーナー出口でのパワーの出方が強烈すぎて、車体が暴れてしまいます。こんなことではサーキットでは速く走れませんが、楽しく走る分にはこの方が面白いんですよ。小さく軽いボディ・貧弱な足回りなのに、エンジンパワーは強烈。暴れる車体をなんとか抑え込んで走る。これが595の醍醐味なんだと思います。
トルクステアは感じない
強大なトルクがあるにも関わらず、意外にもトルクステアはあまり感じません。ルノー・メガーヌR.S.のように特別なことをしているとも思えないので、設計のバランスの良さなのでしょうか。ゴルフGTIやマツダスピードアクセラが恐怖を感じるほどのトルクステアだったのとは大きく違いますね。
足の問題があるのでコーナリング中は気が抜けませんが、普通に直線で加速する分には意外なほど安定しています。面白いのに恐怖を感じさせない絶妙なセッティングはアバルトノウハウの賜なのかもしれません。
車体の暴れをどう捉えるか
「車体の暴れ」を面白いと感じるか乗りにくいと感じるかが、595を好きになるかの分岐点です。私には面白く感じました。これが日本車やドイツ車ならおそらく落第でしょうが、イタリア車やフランス車ならこれくらいヘンテコな方がいい。ましてAセグメントの595ならセカンドカーにする人が多いでしょうから、普通に乗りやすいクルマにする必然性がありません。せっかくサソリを選ぶなら、これくらい暴れて欲しいんです。
トランスミッション
トランスミッションの出来はさほど良くありません。もっとショートストロークでコクコク入るのを期待したんですが、ちょっと動きが緩すぎますね。124スパイダーはマツダ製なので良い出来だったんですけどね。
困るのがペダルの配置です。フットレストが無いのは仕方ないとして、ペダル間隔が狭すぎます。アクセルを踏もうとしてブレーキペダルに触れてしまいました。せめてもう少し広ければなぁと思います。
ただしこれは右ハンドル車の感想なので、左ハンドルでは異なる可能性が高いです。ヨーロッパ車、特にイタリア車では左ハンドルの方がMTのペダル配置に余裕がある設計になっていることが多いので、MTモデルを買う場合は左ハンドル車も試した方がいいと思います。
マフラー
アバルト・500/595には、レコードモンツァというスポーツマフラーが装着可能です。595コンペティツィオーネには標準装備、それ以外にはオプション設定(162,000円)されています。
これがなかなかに良い音を聴かせてくれます。よくこれで車検対応にしたな!というほど。いやーこういう車検対応のスポーツマフラーをアルファロメオ・ジュリエッタにも設定して欲しかったですね。
ちなみに695ビポストはAkrapovic製のデュアルステージマフラーが標準装着されています。回転数によってバルブが開閉するみたいなので、こちらも聴いてみたいものですね。
価格に対しての価値
アバルト・500はベース価格が286万円。装備が充実した595コンペティツィオーネは353万円です。ベースのフィアット500が200万円~であることを見ると高く感じますが、私はこれでも安いと思います。
国産スポーツカーではトヨタ・86が262万円~、マツダ・ロードスターが250万円~と似たような価格帯です。国産の高バランススポーツカーとは趣が異なりますが、同じ価格帯に設定されているのは妥当だと思います。200万円台で購入できるスポーツ/スポーティカーとして、検討の対象となるに十分な走行性能を備えています。私はロードスターを愛してやみません(今はNBを降りてジュリエッタを所有)が、アバルト595は本気で欲しいと思いました。
一方トップモデルの695ビポストは599万円~。さすがに高いですね。こちらには1.5Lクラスの市販車初となるドグミッション+機械式デフを搭載した「フルスペック仕様」(846万円~)というのもありますが、そこまでいくと乗りこなせる実力が無いとまともに走らせることすら難しいでしょうね。
まとめ
124スパイダー目的でアバルトディーラーに行きましたが、意外にも595の方が面白みがある特徴的な車になっていることが発見できました。
124スパイダーが正直期待外れだったので、正直あまり期待していなかったんですよ。スペック表で見れば595と124スパイダーの車重やエンジン性能ははほとんど同じ。単純に考えればスポーツカースタイルでFR駆動の124スパイダーの方が面白いはず。
でも実際は違いました。124スパイダーがトルクフルで快適に走れる安定した車になっていたのに対して、595は暴れるサソリ。124スパイダーはマツダと共同開発・マツダ生産ですから、良くも悪くもロードスター並みにうまくバランスされた「日本車」なのでしょうね。一方の595は、イタリア人の異常さ(褒め言葉)を感じられる素晴らしい車になっていました。
フィアット版の124スパイダーはともかく、アバルト版の方はこれくらいトリッキーな仕様にして欲しかったですね。アバルト・124スパイダーの試乗記はこちら↓