マツダがFRメーカーへ転身?理由と可能性を紐解いてみた

   

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マツダがFR(後輪駆動)メインのメーカーに華麗な転身を遂げる可能性が出てきました! この前FRが欲しくなるとか言っていましたが、まさかこんな話が出てくるとは。

FFばっかりになってしまって理由をおさらいして、本当にFRになる可能性はどれくらいなのか詳しく見てみましょう。

情報の発端

日経が報じた情報によれば、概要はこうです。

マツダは複数の部品メーカーに、2020年頃の発売を想定した車両のRFQ(Request for quotation:見積もり依頼書)を提出した。RFQに対するフィードバックを見て最終的に判断する。仮に量産を決断すると、2020年頃の全面改良が予想される「CX-5」や「アテンザ」からFRプラットフォームを採用する可能性が高い。

細かく説明していきましょう。

RFQって何?

RFQとは、組み立てメーカー(ここではマツダ)から部品メーカーへの依頼です。具体的には、

「こういう仕様のこういう部品をこの時期にこれくらいの量欲しいので、そちらで用意できる部品の詳細な仕様と値段をください」

といったものです。部品メーカーは自社から納入可能な部品で仕様に見合うものを選定して、仕様と価格をマツダに提示することになります。

このニュースでは、マツダが部品メーカーに出した依頼の内容(おそらく漏れた)から推測すると、マツダはFRプラットフォームへの転換が予想されるとのことです。複数の部品メーカーと書かれていることから、信憑性は高い情報なのでしょう。

マツダのラインナップ

プラットフォーム 車種 発売時期 次のフルモデルチェンジ
Bセグメント(FF) デミオ 2014年9月 2022年?
CX-3 2015年2月 2023年?
C/Dセグメント(FF) CX-5 2012年2月 2020年?
アテンザ 2012年11月 2020年?
アクセラ 2013年11月 2021年?
FR ロードスター 2015年5月 2025年?
ミニバン/大型SUV プレマシー 未発売(2016年?) (2024年?)
CX-9 未発売(2016年?) (2024年?)

現状のマツダ車のラインナップは、スカイアクティブ全面採用車(魂動デザイン)に限ると6車種です。さらに「第一世代スカイアクティブ」として発表が予想される残り2台も入れておきました。

種類 日本名 海外名 海外展開
SKYACTIV全面採用(採用順)
中型SUV CX-5 世界
中型セダン
ステーションワゴン
アテンザ Mazda 6 世界
小型セダン
ハッチバック
アクセラ Mazda 3 世界
コンパクトカー デミオ Mazda 2 世界
小型SUV CX-3 世界
オープンスポーツ ロードスター MX-5 世界
SKYACTIV未採用 or 部分採用
中型ミニバン プレマシー Mazda 5 世界
大型SUV CX-9 日本以外
大型ミニバン MPV Mazda 8 北米以外
大型SUV CX-7 中国専売
中型ミニバン ビアンテ Biante 日本+アジア一部
プレミアムコンパクト ベリーサ 日本専売

現状のラインナップには、他にMPVやビアンテなどがありますが、プレマシー(Mazda5)とCX-9以外は販売終了が予想されています。

未発売のプレマシー、CX-9はさておき、今回の記事ではアテンザやアクセラが属する「C/Dセグメント」がFRプラットフォームへ移行すると予想しています。

FRにすることのメリット&デメリット

FF-FR-MR-4WDなんでFR(後輪駆動)への転換なんて話が出てきたのでしょうか? そもそもなんで今はFF(前輪駆動)なんでしょう?

歴史を紐解くと、元々自動車はFR(フロントエンジン後輪駆動)やRR(リアエンジン後輪駆動)からスタートしました。駆動するタイヤと操舵(左右に曲がる)タイヤを区別する方が技術的に簡単だったからです。それが時代が進むとFF車がどんどん増えるようになりました。

ミッドシップやRRは今では少数派なので、FF・FR・4WDを比較してみましょう。

メリット デメリット
FF 他車種との共用が容易 → コストが安い
車室が広くなる
駆動輪が重いエンジンの下なので、雪道で滑りにくい
高出力車に難点
FR スポーティな走り
上質な乗り心地
センタートンネルで車内が狭くなる
4WD 雪道で最も滑りにくく安定 一般に燃費が悪い
小回りに難点

最大のポイントはFFが最も安く作れることです。今の時代、各車種に専用シャシー・専用エンジン・専用トランスミッションなんて贅沢なことはできません。いかに他車種と共通部品を作るかが値段を左右し、結果的に販売成績に繋がります。

FF車は、実質車の前半分があれば走れます(映画「ピクセル」で実演されていました)。極端に言えば、後ろ半分は箱とタイヤが付いているだけです。もちろん色んな調整は必要ですが、FF車なら同じエンジンとトランスミッションで色んなサイズの車が作れるわけです。最近のフランス車なんかはどのグレードもほぼ同じエンジンを搭載しています。

コストと車室の広さを優先した結果、特に実用車や小型車の分野はFF車ばかりになりました。

元FR専業メーカー・BMW

FR専業メーカーとしては、ドイツの高級車メーカー・BMWが有名でした。BMWは走りにこだわったメーカーで、走りを面白く上質にするためにはFRであることが重要だと考えています。ちなみに現在のキャッチコピーは「駆け抜ける歓び」です。BMWのスポーツセダンはたしかに面白かったです

そんなBMWも、最近になってFF車も販売するようになりました。まだまだメインはFRですが、これも時代の流れということなのでしょう。

BMWグループ、という意味では、ミニクーパーの「MINI」もBMWの1ブランドなので、FF車をたくさん作っています。

マツダがFRに移りたい理由

今回転換が予想されているのはC/Dセグメントです。サイズ表記としてはアクセラ、インプレッサ、プリウス、ゴルフなどがCセグメント、アテンザ、マークX、アコードなどがDセグメントです。

マツダではCセグメント車とDセグメント車をまとめて1つのプラットフォームで展開しています。現在該当する車種は「アテンザ」「アクセラ」「CX-5」の3車種です。

左:アテンザ

左:アテンザ,右上:アクセラ,右下:CX-5

この3車種を次の世代でまとめてFRにしようというわけです。

FF全盛となった今でも、車格が高い車種ではFRが多く残っています。アテンザの属するDセグメントで見てみると、BMW以外にも日産やレクサスもFR車を出しています。

車種 価格
FF マツダ・アテンザ 176 万円~
ホンダ・アコード 375 万円~
アウディ・A4 467 万円~
FR トヨタ・マークX 251 万円~
日産・スカイライン 383 万円~
BMW・3シリーズ 427 万円~
メルセデスベンツ・Cクラス 427 万円~
レクサス・IS 454 万円~

マツダは凡庸な実用車ブランドではなく、BMWのような「走りへのこだわり」を標榜するメーカーに転身したいのでしょう。

すでにマツダからは「一部の客に愛されるなら、多くの人に嫌われてもいい」なんてメッセージも出ています。「○○より安いから、じゃあマツダの車にしよう」ではなく、「マツダ車を買いたい」と言われるメーカーになりたいんでしょうね。

走りにこだわるとFFは足かせになってきます。FRスポーツカーの走り(特にコーナリング)にこだわってきたマツダならなおさらです。アクセラが属するCセグメントでFRは前述のBMWしかありませんから、FR車をラインナップすることには大きな価値があります。

マツダのFRと言えば、ロードスターやRX-7に代表されるスポーツカーが思い浮かびます。RX-7(3代目FD型)は前後重量配分50:50と低いヨー慣性モーメント、低重心のロータリーエンジンが作り出した究極のコーナリングマシンと呼ばれました。そんなマツダが作るFRスポーツセダンに期待できないわけがありません。

マツダはFRメーカーになれるの?

FRへの転換は技術的には十分可能でしょう。単純にFRを作ったことがあるからということではなく、現在のマツダの量産体制にその秘密があります。

マツダは随分(たしか15年以上)前から異種混合生産を行っています。これは「ヴィッツ専用ライン」「プリウス専用ライン」という生産方法ではなく、「マツダ車ライン」にアクセラやらデミオやらロードスターやらが流れてきて、来た車種に合わせた部品が取り付けられるというものです。

実際にマツダの工場を見たことがありますが、サイズも形も全然違う車が次々に流れてくるのは異様です。ラインの横からは来る車種に合わせたガラス、インパネ、シートなどが順に流れてきて(すべてコンピューター管理)、ライン工はあらゆる車種に適切に取り付けを行っていました。圧巻です。

そして重要なのはそこにロードスターが含まれるということ。ロードスターはFRです。すでにFFとFRの混合生産の実績があるので、アテンザがFFであろうがFRであろうが生産性にはなんら問題がないということです。素晴らしい。

まとめ

気をつけないといけないのは、まだマツダがFRへの転換を決定したわけではないということです。RFQは「見積もり依頼」でしかありませんから、RFQを出したけれども内容が好ましくないからやめるという可能性もあります。

ただこのFF全盛の時代で、複数プラットフォームのFRへの転換は、普通なら検討すらされないところでしょう。流出の可能性のある情報を社外に出してまで検討を進めているということは、実際にFRメーカーになる確率は十分に高いでしょうね。

ロータリーエンジン復活やHCCI燃焼なんて話題もありますし、これからのマツダの動向に注目です。

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