フィアットパンダ試乗レビュー!500やトゥインゴより売れるAセグ車のデザインや走りはどうなの?
フィアット・パンダに試乗しました。ヨーロッパで最も売れるAセグメント車のデザインや走りは? フィアット500やトゥインゴとどっちがいいのでしょうか?
目次
フィアット・パンダってどんな車?
ヨーロッパでのAセグメントの販売台数はフィアットが3割を占めていて、長らくシェア1位の座についています。そんなフィアットですが、Aセグメントに車種を多く持っているわけではなく、たった2車種しかありません。一つは500(チンクエチェント)、もう一つがパンダです。
なぜ2車種しかない?
日本ではトヨタに代表されるように、ほとんど同じ車を外観や内装を少しだけ変えて別車種として販売することがよくありますね。「中型ミニバン」というクラスに[ウィッシュ・プリウスα・アイシス・ヴォクシー・ノア・エスクァイア・エスティマ]って多すぎですね。微妙に性格を変えて選択の幅があるように見せかける手法です。一方ヨーロッパでは最善とされる車種を厳選して用意するメーカーが多いです。各車格に1台ずつのラインナップにして、「ウチが考えるBセグメントの最善はコレです」と示すわけです。
Aセグメントで大きなシェアを占めるフィアットの考える「最適なAセグメント車」は2台だったというわけ。そもそもAセグメントに属する車には、一点突破型おしゃれ小型車と全方位型の詰め込み車の2種類があります。
フィアットではおしゃれ担当が500、詰め込み担当がパンダというわけ。500とパンダは同じくらい売れていますが、どの年もパンダの方がやや多いです。
フィアット・500については詳しい試乗記を書いています↓
- フィアット500&500C試乗記
パンダの特徴
パンダの特徴は、「Aセグメント欧州車ながら4ドア」「2気筒のダウンサイジングターボ」「シングルクラッチ式AT」の3つです。エンジンとトランスミッションは500とも共通していますが、500はオシャレさや走りを優先して2ドアになっています。
4ドア
日本では軽自動車でもドアが4枚あるのがほとんど当たり前という状況です。最近では非力な車に電動スライドドアを載せるという暴挙すら珍しくなくなりました。一方ヨーロッパにおいては日本ほど4ドアであることは重視されません。小さな車に無理矢理ドアを増やしても見た目や走りが悪化するだけという面と、一般に利便性のある4ドアより2ドアの方が車格が高く見られるという面があって、実用性よりオシャレさで乗るクルマほど2ドアが採用されます。
フィアットでは、おしゃれコンパクトカーである500は利便性を重視して2ドアです。ミニクーパーのように2ドアと4ドアを両方用意するということもありません。そしておしゃれさよりも利便性を求める人は4ドアのパンダを買ってくださいというわけです。
2気筒ターボエンジン
エンジンラインナップは500と同じく[0.9Lガソリンターボ,1.2Lガソリン,1.3Lディーゼル]がメインです。そのうち日本に入ってきているのは、500には0.9Lターボと1.2Lガソリン(0.9Lターボ導入前は1.4Lガソリン)、パンダは0.9Lターボのみです。
500とパンダに両採用されている0.9Lターボエンジンはなんと2気筒の「TwinAir」と呼ばれるもの。ダウンサイジングターボの潮流に沿ったとはいえ、振動と騒音に著しく劣る2気筒エンジンを採用するとは随分思い切りましたね。
シングルクラッチ式AT
何度か用意されたMTの限定車を除けば、パンダはシングルクラッチ式ATのみです。MTの構造をそのまま自動化したのでダイレクト感には優れますが、変速のスムーズさは各種トランスミッションの中で最も劣ると言えるほどの違和感があります。
他の何を差し置いても、このシングルクラッチ式ATが受け入れられなければパンダを選ぶことはできないでしょうね。
デザイン
エクステリア
顔や四角いボディは、ルノーのBセグメントミニバンのカングーと似ていますね。
ヘッドライトとその中間からエンブレムへの処理、下のナンバープレート周りなどよく似ています。発売はカングーの方が先(2007年~)ですが、フェイスリフトを受けて今の顔になったのはパンダのモデルチェンジ(2011年)より後の2013年。うーんなんとも微妙です。まぁカングーのメインは商用車なのでジャンル違いなんですけどね。
横から見てもおしゃれコンパクトカーの雰囲気はありません。ヨーロッパの実用コンパクトカーらしいデザインです。カングーとも共通するドアの黒いプレートはボディの保護のためでしょうか? 日本では商用車にしか見かけないデザインです。カングーは実際商用車モデルがある(というか商用バンの乗用車化)のでいいとして、パンダには必要なんでしょうかね。デザイン的にはダサいだけだと思います。
パンダらしい特徴として、後述するように異常なほど角丸四角形を多用しています。エクステリアではなんとフェンダーアーチがほんのり四角形になっています。乗用車でフェンダーが丸くない車なんて他に知りません。
インテリア
パンダのインテリアには異常とも言えるほど角丸四角形が多用されています。国産でもトヨタC-HRで菱形多用という例はあっても、ここまでではありません。ステアリングやスイッチ類、メーターやヘッドレストに至るまで角丸四角形です。統一感があるとはいえ、ちょっとやり過ぎな感じもします。
デザインにはこだわりを感じますが、全体的に質感が高くありません。プラスチック感丸出しです。所詮安い車ですからね。国内向けと同じ0.9Lターボの本国価格は13,550ユーロ(164万円)~。スズキ・ソリオのエセハイブリッド仕様(170万円~)と同じくらいのポジションと考えると質感の低さも仕方ないかな、と思います。
シフトレバーやインパネの構成などを見ると500と共通する部分が多いことが分かりますね。500の方は丸が多く使われています。でも質感は500の方が明らかに高いんですよ。なのに本国価格も日本での価格も15万円アップ程度。絶対500の方が内装の満足度が高いです。しかも500は大幅改良+フェイスリフトを受けていますが、パンダは以前のまま。今パンダを買う理由が見当たりません。
他に特徴的なのは、500と同じくパワーウインドウが中央にあることでしょうか。パンダの場合はドアミラーの調整機構がAピラーにあるので、ドアポケット周辺にスイッチ類が一切ありません。おそらくコストカットの結果なのでしょうね。
走り
加速感
パンダに設定されているのは2気筒の0.9Lターボエンジンのみ。いわゆるダウンサイジングターボで、500に設定のある1.2L自然吸気エンジンよりもハイパワーです。
十分なパワーがあって、Aセグメントにしては加速感は良好です。高回転の伸びはイマイチですが、低回転域からしっかりトルクが出てくるので必要十分以上の加速を得られます。国産コンパクトカーの1.3Lと1.5Lの間くらいの加速感だと思います。
2気筒でフリクションロスが小さいからか、回転数が機敏に変化します。キビキビとしたエンジンの動きは、後述する音や振動の除けばAセグメントコンパクトカーにピッタリだと思います。
音・振動
パンダの問題点は、音と振動が酷いということです。2気筒エンジンで振動が大きいのは当然なんですが、同じエンジンを積む500では気にならなかった音と振動がパンダではかなり気になります。おそらく制振性はほとんど変わらないのでしょうが、遮音性が低すぎてかなり耳障りな音がじゃんじゃん入ってきます。
500では音が楽しめる程度に抑えられていたのでTwinAirでも全然アリだと思えましたが、パンダの方は許容できません。うるさすぎます。
しかもパンダを買う人は実用性も捨てきれない人なのでしょうから、TwinAirの音や振動を「面白い」とは捉えられず「不快」だと思う人も多いでしょう。完全に選択をミスっています。日本で売ろうと思ったら多少非力でも静かで安い4気筒の1.2Lエンジンの方を入れるべきでしたね。1.2Lなら20万円ほど安いので、同じ4ドアAセグメントのルノー・トゥインゴとまともに張り合えたと思います。
トランスミッション
トランスミッションは500と同じシングルクラッチAT「デュアロジック」です。疑似クリープ無し、変速時のトルク抜け、MT並みのダイレクト感といった特徴は同じです。
ちなみにマニュアルモードでの変速はシフトレバーを手間に倒すとアップです。手前(下)がアップになっているのはフィアットグループ(アルファロメオやマセラティ含む)とBMWとマツダだけです。加速Gのかかる向きを考えるとこちらの方が正しいはずなんですが、トヨタも日産もアウディもプジョーもポルシェも逆です。
足回り・乗り心地
足回りに安定感はなく、ちょっと路面に凹凸があるだけでガタガタと不穏な動きをします。軽い轍やマンホールでもすぐにハンドルを取られるので運転するのが非常に疲れます。日本の軽自動車と同じくらいかそれ以上に乗りにくいです。500と同じホイールベースのはずなのに、なぜこんなにも差がついてしまったのか不思議です。
日本よりヨーロッパの方が足回りが重視されるはずなのに、なんでこんな足回りの車が売れるんでしょう。乗ってみてこれは絶対に買いたくないと思いましたよ。近所のお買い物に使うならこれでも問題ないのでしょうが、長距離走行にまったく向かないのは日本の軽自動車と同じ。安くて小さくて広ければOKという客層がヨーロッパにもたくさんいるんですかね。
乗り心地もあまりよくありません。車体がフラフラするというのもありますが、細かい凹凸を拾うたびにそれが乗員に伝わります。不安定な動きと乗り心地の悪さによって同乗者はかなり酔いやすいでしょうね。
ドライビングポジション
ステアリングはチルト(上下調整)しかありません。イタリア人の体格に合わせて作られているのか、ステアリングが遠いです。シートの違いもあってか、500以上にステアリング位置の悪さが気になりました。
シートはかなり高い位置に真っ平らな板があるタイプ、いわゆるベンチ型です。まったく守られ感・安心感がありません。まるで軽自動車です。腰のサポートも無いので長時間乗ると疲れが出やすいでしょう。ヘッドレストはかなり硬いのも気になるところ。ヘッドレストは500も硬いです。
フットレストはありません。アームレストもありません。ドアポケットの辺りに右腕がかろうじて置ける程度です。長距離運転のことは一切考えられていません。長距離どころか30分程度で降りたくなってきそうです。
ライバルとの比較
500との違い
フィアット500とのボディの違いを見てみましょう。
500とパンダはホイールベース(前後輪軸の距離)は同じ。全長は500の方が15mmだけ長く、全幅と全高はパンダの方がそれぞれ20mm、35mm大きいです。ほとんど同じようなサイズですね。500の方がオシャレさが圧倒的に上なのは、横からでもよく分かりますね。
重ねてみると車体前方はほとんど同じ。入ってるエンジンが同じ(0.9Lターボの場合)なので、中身はほぼ同じ構造なのでしょう。全高は実車だと500の方が低く見えますが、実際はほとんど変わりません。後方は500だとルーフがなだらかに下りていくのに対して、パンダは箱型です。
Aセグメント欧州車の比較
パンダと同じクラスの車は多くありません。
車種 | フィアット パンダ |
フィアット 500 |
ルノー トゥインゴ |
フォルクスワーゲン up! |
---|---|---|---|---|
グレード | イージー | ツインエア ポップ | インテンス | move up |
全長 | 3,655 mm | 3,570 mm | 3,620 mm | 3,545 mm |
全幅 | 1,645 mm | 1,625 mm | 1,650 mm | |
全高 | 1,550 mm | 1,515 mm | 1,545 mm | 1,495 mm |
ホイールベース | 2,300 mm | 2,490 mm | 2,420 mm | |
車重 | 1,070 kg | 1,010 kg | 920 kg | |
駆動方式 | FF | RR | FF | |
トランスミッション | 5AMT | 6DCT | 5AMT | |
エンジン形式 | 直列2気筒 | 直列3気筒 | ||
排気量 | 0.9L ガソリンターボ | 1.0L ガソリン | ||
最高出力 | 85ps / 5,500rpm | 90ps / 5,500rpm | 75ps / 6,200rpm | |
最大トルク | 14.8kgm / 1,900rpm | 13.8kgm / 2,500rpm | 9.7kgm / 3,000-4,300rpm | |
フロント サスペンション |
ストラット | |||
リア サスペンション |
トーションビーム | 車軸 | トーションビーム | |
燃費 | 18.4 km/L (5.4 L/100km) |
24.0 km/L (4.2 L/100km) |
21.7 km/L (4.6 L/100km) |
25.9 km/L (3.9 L/100km) |
年間燃料費 (10,000km) ハイオク137.0円 |
7.4 万円 | 5.7 万円 | 6.3 万円 | 5.3 万円 |
価格 | 214 万円~ | 229 万円~ | 189 万円~ | 176 万円~ |
似たような車ですが、ジャンルは微妙に違います。
フィアット | ルノー | フォルクスワーゲン | |
---|---|---|---|
おしゃれ車 | 500 | トゥインゴ | - |
廉価車 | パンダ | up! |
500は明らかにおしゃれ車です。リアシートが狭く2ドアですが、デザインは抜群に優れます。ルノートゥインゴはフランス的おしゃれさを持ちつつも基本は廉価車。RRなこと、DCTを採用したことが特徴になっています。
フォルクスワーゲンのup!は明らかに廉価車です。乗ってみてもおしゃれさなんてまるでなく、ただ安い車だなぁと感じるだけでした。AMTの出来はフィアットよりも低いですし、5ドア176万円~という価格設定は高すぎです。日本で買っている人は「輸入車」という部分だけで買ったのでしょうね。
まとめ
買いたくはなりません。なぜフィアットがAセグで1位なのかが分からなくなりました。500は完成度が高くて欲しくなる車ですが、パンダは欲しいとは思えませんね。角丸四角形を多用して統一感を出した内外装はともかく、走りの質が低すぎます。パンダが売れるのは日本の軽自動車が売れるのと同じ理由なのかもしれません。「実用的で走ればなんでもいい」という客層向けだということ。軽自動車がある日本で買う理由はほとんど無いと思います。
以前500に長時間試乗(1時間弱程度)したことがありますが、それよりもパンダの15分程度の試乗の方が遥かに疲れました。ここしばらくで乗った車ではup!と並んで出来が悪かったですね。降りたくなりましたよホントに。
同じAセグメントで見ると、フォルクスワーゲン・up!が競合するのでしょう。安っぽくて新興国も想定した造りです。おしゃれコンパクトカーが欲しければ素直に500を買ってください。Aセグメントでちゃんとオシャレさだったり品質だったりの要求水準を満たせているのは500とトゥインゴだけです。
「小さい実用車」では軽自動車を持つ日本に対抗するのは難しいでしょう。加速性能以外では走りの質もパッケージングも軽の方が正直上です。正直言ってコレに200万円も払う気にはなれません。実用性が欲しければ大人しく日本の軽自動車、おしゃれさが欲しければ500、どっちも捨てきれないならトゥインゴを買いましょう。