サスペンションの種類によって何が違うの?
スペック表を見ると必ず書いてある項目「サスペンション形式」。なんだろなーくらいにしか思っていませんか? サスペンション形式を知ると、何を目指した車なのか分かってきますよ。
サスペンション形式を知ることで、車の性格や乗り心地、どんな使われ方を想定しているかが見えてくるかもしれません。
サスペンションの種類
サスペンションにも色々な種類がありますが、現在よく採用されている形式は大きく分けて3種類です。
種類 | 懸架 | 性能 | コスト | サイズ |
---|---|---|---|---|
ダブルウィッシュボーン マルチリンク |
独立 | 高 | 高 | 大 |
(マクファーソン・)ストラット | 独立 | 中 | 中 | 小 |
トーションビーム (またはトレーリングアーム) |
車軸 | 低 | 安 | 小 |
マルチリンクは「4リンク」や「5リンク」などと本数が書かれることがありますが、本数はさほど重大ではありません。「スタビライザー付」などと書かれているのは付加的な機能で、サスペンションの種類によって決まる性能から大きく外れることはありません。
独立懸架と車軸懸架
分かりやすい大きな違いは、左右独立懸架かどうかです。
上の2種類、ダブルウィッシュボーンとマルチリンク,ストラットの3つは左右独立懸架です。つまり、右のタイヤと左のタイヤが全く独立に上下します。左のタイヤが轍や石などを踏んだとき、左のタイヤは上下に動いて衝撃を吸収しますが、右のタイヤは(基本的には)その影響を受けません。これが乗り心地や走行性能を良くします。
一方、トーションビームは車軸懸架で左右は独立していません。正確には、完全に連動せず衝撃が伝わりづらい設計にはなっていますが、左タイヤが上下に動くと、何の障害物も拾っていない右タイヤも上下に動いてしまいます。片側のタイヤが上下すれば吸収できるのに、反対側のタイヤが無用に動いてしまうため、どうしても乗り心地や走行性能は独立懸架より悪くなってしまいます。
- 完全に「独立」ではない
-
独立懸架で「基本的には」と言ったのは、独立懸架でも左右を敢えて接続することがあるからです。一般に「スタビライザー」と呼ばれる部品で、左右のサスペンションの動きを少しだけ連動させるようにしています。
スタビライザー、日本語で「安定させるもの」の役割は、コーナリング中の車体姿勢の安定化です。
コーナリング中の車体は遠心力によってロール(写真の矢印のような回転・傾き)が発生します。完全な独立懸架の場合、内側は伸び外側は縮むのでロールは大きくなります。適度なロールは必要ですが、大きなロールは車体が大きく傾いてしまい、ふらふらと落ち着かない車になってしまいます。
ロール発生時は左右のサスペンションが伸び・縮みと逆向きに動くので、左右が少し連動するように繋げるとこの動きが抑えられ、ロールが減少します。
安定した速いコーナリングを求められるスポーツカーに求められる装備ですが、高速コーナリング性能をあまり求められない大衆車では装備されないことも多いです。
フロントはストラット全盛
現在はストラットと呼ばれるサスペンションがフロント用に最も多く使われています。特にFF車のフロントサスペンションでは圧倒的な採用率を誇ります。ストラットはダブルウィッシュボーンなどと同じ独立懸架方式でありながら、コストが安く設置スペースも小さいことから採用が増えました。
ストラット方式では、ショックアブソーバー(バネの振動を減衰させる筒状のパーツ。普通は周りにバネが取り付けられる)そのものがタイヤを支える機能を担います。部品点数が少ないのでコストが下がり、かつダブルウィッシュボーンのようなアームが不要なので場所も取りません。
特にFF車においてはエンジンルームにあまり余裕がないので、横方向に場所を取らないストラットがかなり有利です。
ストラットの欠点
ストラット方式の欠点は、運動性能がダブルウィッシュボーンに劣ることです。
独立懸架ではあるものの、サスペンションの動きのスムーズさや、動作時のタイヤの傾き方の面でダブルウィッシュボーン程の性能は出せません。単に性能を求めるのであれば、ダブルウィッシュボーンやマルチリンクには及びません。
ストラット方式が多く採用されているのは、多くの車種ではストラットの性能で十分であり、ダブルウィッシュボーンやマルチリンクの高い性能よりも、ストラットのコスト&スペースメリットの方が重要だと考えられたからです。
リアはトーションビーム or マルチリンク
リアには安くて低性能のトーションビーム、高くて高性能のマルチリンクのいずれかが採用されることが多いです。
トーションビームは車軸懸架なので性能で言えばどうしても劣ります。ですが、コスト面のメリットが大きいので、運動性能や乗り心地よりも安価であることを求められる軽自動車や大衆小型車に採用されます。FF車では、駆動と操舵を担う前輪比べて後輪の重要度は相対的に低いですが、車軸懸架になるとどうしても乗り心地が悪化してしまいます。
トヨタ・アルファードの2014年までのモデルでは、あの巨体であの価格(300~500万円)なのにリアにトーションビームを採用していて批判されたことがありました。採用の賛否はともかく、性能が劣ってしまうのは確かです。批判を受けてか、2015年モデルではダブルウィッシュボーンに変更されました。
もう一つの観点は、トーションビームの方が小さいことです。マルチリンクの登場によってダブルウィッシュボーンより設置自由度は高まったものの、トーションビームに比べればマルチリンクの方が場所を取ります。
B/Cセグメントの小型ハッチバックなど、車内空間に余裕が無い場合は、性能低下を承知で敢えてトーションビームを採用することがあります。例えばプジョー・308は車の性格からすればマルチリンクが採用されそうな車種ですが、(もちろんコストメリットもありますが)車内空間を広く取るためにトーションビームが採用されています。プジョー・308はサスペンション以外のところが微妙でしたが。
ちなみにホンダ・S660のようにリアにストラット式を採用するものも中にはありますが、リアにストラットが使われることは稀です。
まとめ
スペック表に書かれたサスペンション形式を知ることで、その車種の乗り心地や性能を推し量ったり、想定される使用目的が考えられると思います。
同じように「セダン」と名乗っていても、フロントがダブルウィッシュボーンを使う車種の方がストラットの車種よりもより走行性能を重視しているのでしょう。同じ「スポーツカー」を名乗る車種でも、リアにトーションビームを使っている車種(ホンダ・CR-Z)もあれば、軽なのに前後ダブルウィッシュボーンを入れていた車種(スズキ・カプチーノ)もあります。
スペック表の意味を知って、車をより深く理解しましょう!