スズキソリオハイブリッド試乗レビュー!フルとマイルドの差額を払う価値はある?

     2017/01/17

スズキ・ソリオに試乗してきました。元々あったマイルドハイブリッドと、11月に登場したばかりのフルハイブリッドの両方に乗ってきました。

それぞれの特徴が明確に感じられて有意義な試乗でした。差額を払ってまでもフルハイブリッドにする価値は果たしてあるのでしょうか?

スズキ・ソリオってどんな車?

スズキ・ソリオはコンパクトなトールワゴンです。サイズ的には最小のAセグメントに属していて、ザックリ言えば軽自動車枠からはみ出した軽自動車です。

フルハイブリッド と マイルドハイブリッド

2015年8月に現行モデルが登場した際は、「エセハイブリッド」とも呼ぶべき「ハイブリッド」グレードが用意されていました。軽自動車では「S-エネチャージ」と呼んでいる機能そのままなのに、なぜか普通車のソリオに搭載すると「ハイブリッド」と名前を変えるという謎機能です。

それまでスズキにはハイブリッド車がありませんでしたからね。ほぼニセモノだとしても「ハイブリッド」を名乗りたかったんでしょうね。ウチにもハイブリッドがありますよ、と。確かにエンジンとモーターが両方載っていますが、モーター単独での発進すらできないので、一般的に言う「ハイブリッド車」とはかなり異なりました。

しかし今年11月に一転、ソリオにだいぶマシな「ハイブリッド」を追加投入してきました。モーターはかなり非力なものの、モーター単独での発進もできるようになりました。ここにきて初めて、S-エネチャージ式のエセハイブリッドを「マイルドハイブリッド」、追加したマシなハイブリッドを「フルハイブリッド」と名乗るようになりました。

ハイブリッドの呼び方がおかしい

そもそもスズキは呼び方がおかしいんです。世の中では「マイルドハイブリッド」はホンダなどが採用するハイブリッドを指します。

採用車種 プリウス,
アクア など
フィットハイブリッド
など
ソリオ
(ハイブリッドSX/SZ)
ソリオ
(ハイブリッドMX/MZ)
モーター出力
(目安)
60~80馬力 20~40馬力 10~20馬力 ~10馬力
エンジン/モーター
バランス
同等 エンジン優位 エンジン優位 エンジン中心
モーター単独発進 ×
モーター単独走行 × ×
自動車業界での
呼び方
ストロングハイブリッド マイルドハイブリッド
スズキの呼び方 フルハイブリッド S-エネチャージ
マイルドハイブリッド

この記事にも詳しく書かれています↓

ソリオの「フルハイブリッド」は世の中的には「マイルドハイブリッド」なんです。あーややこしい。ハイブリッドを搭載する技術力(あるいはコストを掛けられる車種)が無いからって、世の中と違う言葉の使い方はしないでいただきたいですね。

ソリオの「フルハイブリッド」に、トヨタ式ハイブリッドのような走りを期待してはいけないということです。

以下、スズキが言うように「フルハイブリッド」「マイルドハイブリッド」を使いますが、実態はそれぞれ「一応ハイブリッド」「エセハイブリッド」です。

ソリオでの マイルドハイブリッド と フルハイブリッド の違い

フルハイブリッド マイルドハイブリッド
モーター単独発進 ×
モード切替 ×
トランスミッション AMT+モーターアシスト CVT
燃費
(JC08)
32.0 km/L
(3.1 L/100km)
27.8 km/L
(3.6 L/100km)
年間燃料費 3.8 万円 4.4 万円
価格 192 万円~ 170 万円~

年間走行距離10,000kmで計算

大きな違いは、エンジンを止めての発進ができるかどうかと、トランスミッションです。

燃料費の差は年間わずか6,000円なので、燃費の差で車両価格の元を取ることはできません(36万キロ走らないといけない)。10年10万キロでの燃料費の差は6万円、車両価格の差は22万円なので、フィーリングや走りの差に16万円の価値があるかが問題になってきます。

ガソリン・マイルドハイブリッドの走り

マイルドハイブリッドの走り(走行感覚)はガソリンエンジン車とほぼ同じです。発進時にモーターがアシストするものの、その分エンジン出力が小さくなるので実際の走行感覚にほとんど差はありません。マイルドハイブリッドのモーター最大出力は所詮3馬力ですからね。走行性能にほとんど寄与しないことは明白です。

ガソリンとマイルドハイブリッドを比較した場合は、単に燃料費・装備・車両価格だけを見れば良いということになります。そして車両価格的にマイルドハイブリッドを買う理由はありません。詳しくは以下の記事で計算しています。

発進は違和感ゼロ

マイルドハイブリッド車でのモーターアシスト付きの発進に違和感はありません。むしろ本当にモーターが働いているのか疑問なレベルです。ハイブリッド特有の駆動源の変化(モーター → エンジンなど)を嫌う人にはいいのかもしれません。いっそシリーズハイブリッドにするという手もありますけどね。

加速感は良好

1トンを切る車重に対して1.2Lのエンジンなので、車の見た目以上に余裕があります。意外とちゃんと走るんだなというのが正直な印象ですね。軽自動車並みに全然加速しなかったトヨタ・ルーミー/タンクとは大違いです。ルーミー/タンクは1.0Lですからね。200ccの差はしっかり感じられます。

加速感に関しては、このクラス(軽トールワゴンを大きくしたAセグメント車)に求められる性能としては十分だと思います。刺激が無くて退屈なのは当然ですが、少なくとも街中を走るのにストレスを感じない程度の加速性能はあります。一方トヨタ・ルーミー/タンクの1.0L自然吸気では街中ですらストレスを感じました。

 

トランスミッション:CVT(無段階変速)が良くない

ガソリンエンジン車とマイルドハイブリッド車はトランスミッションがCVTです。極限までエンジン回転数を落とすので燃費は向上する一方、走行時の滑り感が強い、加速時にワンテンポ遅れるといったフィーリングの悪さが欠点です。

ソリオのCVTも例外ではなく、滑り感があります。走行中の再加速ではエンジンはグゥーン!と唸るのに、車速はなかなか上がってくれません。絶対的なパワーはさほど不足していませんが、フィーリングが良いとは言えません。

なまじ加速がちゃんとしているだけに、トランスミッションの出来が残念ですね。普通にトルコン式ATを搭載してくれていたらどんなに良かったことか。昨今の燃費重視(というかカタログ燃費重視)のせいでどんどんCVT採用車が増えていますが、燃費向上効果よりもフィーリングを悪化させる影響の方が大きいのではと思います。もちろん価値観は人それぞれですけどね。せっかく1.2Lエンジンでそこそこ余裕があるのに、トランスミッションが無駄にしてしまっている感じがします。

フルハイブリッドの走り

前述したように、フルハイブリッドと言っても「一応ハイブリッドと呼べるレベルになりました」という程度です。

モーターでの発進可

フルハイブリッドでは、モーター単独での発進が可能です。ただしモーター単独になるのはかなり限定的です。

エコモード オンの場合

停止中はもちろんエンジンが停止しています(アイドリングストップ)。ブレーキを離してもエンジンはかからず、そのままモーターでするすると走り出します。AT車のクリープ現象をモーターで擬似的に再現しているわけですね。モーターによる発進なので静かです。

そこから加速しようとアクセルペダルに触れた瞬間、エンジンが始動します。そこからはエンジンがメインで走行します。

つまり、クリープ現象部分だけEV走行(モーター走行)できますというハイブリッド車ですね。

アクアなどのトヨタ式ハイブリッドでは、アクセルをあまり踏まなければ低速域をEV走行で広くカバーできます。ソリオのフルハイブリッドはそれとは大きく異なりますね。EV走行なのはほんの一部だけです。

エコモード オフの場合

エコモードがオフの場合は、ブレーキを離した瞬間にエンジンが始動します。つまりモーター単独での走行が一切無くなります。一応走行中のモーターアシストはしてくれるわけですが、もはやハイブリッド車であることに気づかないレベルですね。

 

加速感はマイルドよりやや上

フルハイブリッドでは発進時以外でもモーターがエンジンをアシストします。マイルドハイブリッドの直後に乗ったので、フルハイブリッドの方が微妙に力強いことが実際に感じられました。ただし差はかなり小さいので、力強さの原因はモーターアシストではなくトランスミッションの差である可能性も高いです。

エコモードがオンになっていても、アクセルをガッツリ踏めば結構しっかり加速してくれます。ただ、エコモードオフに比べるとエンジン出力が大きくなるまでのタイムラグが大きくなります。

EV発進を使いたいならエコモードは常時オンにすることになります。というかむしろEV発進を使わないならフルハイブリッドにする理由半減(残りはトランスミッション)です。エコモードオンでも(タイムラグがあったとしても)ちゃんと加速できるのは、高速道路の合流などで助かるかと思います。そもそもソリオという車は高速道路には全く向きませんけどね。

トランスミッション:AMT

ソリオのフルハイブリッドは、「シングルクラッチ式AT」(あるいはAMT)を採用しています。スズキでは「AGS」と呼んでいます。オートマチックトランスミッションにはいくつか種類があって、それぞれ特徴が異なります。圧倒的多数がトルコン式、最近の低燃費車やソリオのガソリン/マイルドハイブリッドはCVTです。

トルコン式 CVT
(無段階変速)
シングルクラッチ
(AMT)
デュアルクラッチ
(DCT)
発進フィール
変速フィール
(○)
変速速度
ダイレクト感
クリープ現象 *1 *1
燃費
コスト
採用車種 大半のAT車
デミオ,クラウン
BMWなど
最近の国産車
プリウス,フィット
インプレッサなど
欧州廉価車
500,up!
など
欧州高級車
ゴルフ,ポルシェ
フェラーリなど

*1 クリープ現象は擬似的に再現しているメーカーも多い。

スズキは最近AMTを積極的に採用していますが、AMTの変速フィールは最悪です。フィーリングではある意味CVTにも劣ります。ただ、変速していない時にはダイレクト感が良いので欧州車では度々採用されています。MTに乗ったことの無い人は特に違和感を強く感じるでしょうね。

ただ、ソリオのフルハイブリッドの場合は特殊です。AMTの変速フィーリングが悪い原因は変速中にトルクが抜けることです。ソリオではこの問題を改善するために、変速中にモーターでアシストするという離れ業をやっています。そしてその効果が素晴らしい! 今まで乗ったAMT車の中で圧倒的に良い変速フィーリングを実現しています。デュアルクラッチ式ほどではありませんが、知らなければトルコン式だと思う人もいるでしょうね。

敢えていえば、発進時と1速→2速はややギクシャクします。でもあまり気になるレベルではありません。AMTではダイレクト感が優秀(MTと同等)なので、走行フィーリングはCVTより圧倒的に上です。そしてそのお陰もあってか、加速感もマイルドハイブリッド車よりも良いように感じられるようになります。

価格の差を考えなければ、走行性能に関してはフルハイブリッド車の方が確実に上ですね。

ドライビングポジション

この手の車はドライビングポジションが犠牲になることが多いので期待していませんでしたが、思ったよりまともでした。ルーミー/タンクやシエンタより上、ヴィッツには劣るといったところです。

ステアリング調整はチルト(上下調整)のみ。テレスコピック(前後調整)はありません。この価格帯なので仕方ありませんね。元々の角度が悪くないので運転しにくいとまでは思いませんが、テレスコがあった方がより多くの人に対応できそうですね。

スペック

ライバル車、トヨタ・ルーミー/タンク & ダイハツ・トールと比較してみましょう。

車種 スズキ・ソリオ
トヨタ・ルーミー
グレード G ハイブリッドMX ハイブリッドSX X
全長 3,710 mm 3,700 mm
全幅 1,625 mm 1,670 mm
全高 1,745 mm 1,735 mm
ホイールベース 2,480 mm 2,490 mm
車重 930 kg 950 kg 1,070 kg
駆動方式 FF
トランスミッション CVT
エンジン形式 直列4気筒 直列3気筒
排気量 1.2L ガソリン 1.2L ガソリン+モーター 1.0L ガソリン
最高出力 91ps / 6,000rpm 69ps / 6,000rpm
最大トルク 12.0kgm / 4,400rpm 9.4kgm / 4,400rpm
フロントサス ストラット
リアサス トーションビーム
燃費 24.8 km/L
(4.0 L/100km)
27.8 km/L
(3.6 L/100km)
32.0 km/L
(3.1 L/100km)
24.6 km/L
(4.1 L/100km)
価格 145 万円~ 170 万円~ 192 万円~ 146 万円~

ガソリン車同士の価格はほぼ同一ですね。走りは確実にソリオの方が上(ガソリン・マイルドハイブリッド・フルハイブリッドいずれでも)なので、ソリオをオススメします。というかルーミー/タンクを選ぶ理由が見つかりません。

まとめ:フルハイブリッドを買う価値はあるのか

さて、冒頭に書いたフィーリングや走りの差に16万円の価値があるかです。

私の感想としては、16万円の価値はあるが、そもそもマイルドハイブリッドが高すぎるです。マイルドハイブリッド170万円に対してフルハイブリッド192万円なら払っても良いかなぁと思いますが、ガソリン車が145万円であるなら絶対そっちの方をオススメします。CVTの悪癖があってもこの価格なら仕方ないかなと思います。

ライバルであるトヨタ・ルーミー/タンクの紹介はこちら↓

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