シングルクラッチ式AT(AMT)とは?メリット・デメリット&クセを軽減する方法とは
2017/01/20
最近勢力を増やしつつあるシングルクラッチ式AT。普通のATや「デュアルクラッチ式」と何が違うんでしょうか? メリット・デメリットを整理しました。
シングルクラッチ式の強い「クセ」は、それに合わせた運転方法を身に付けることで軽減できますよ。
目次
トランスミッションとは
トランスミッションは、走行速度に合わせてエンジンの回転数を減速(回転を遅く)する機構のことを指します。詳しくは以下の記事で解説しています。
ATの種類
シングルクラッチ式トランスミッションは、オートマチックトランスミッション(AT)の一種です。現在ATには主に4種類あります。
AT方式 | トルコン式 (有段変速) |
CVT (無段階変速) |
シングルクラッチ式 (AMT) |
デュアルクラッチ式 (DCT) |
---|---|---|---|---|
概要 | スムーズ重視 | 燃費重視 | ダイレクト重視 (≒MT) |
理想追求 |
発進フィール | ○ | ○ | △ | △ |
変速フィール | ○ | - (無段階のため) |
△ (○*2) |
◎ |
変速速度 | ○ | - (無段階のため) |
△ | ◎ |
ダイレクト感 | ○ | △ | ◎ | ◎ |
クリープ現象 | ○ | ○ | △*1 |
△*1 |
燃費 | △ | ◎ | ○ | ○ |
コスト | ○ | ○ | ◎ | × |
採用車種 | 大半のAT車 デミオ,クラウン BMWなど |
主に最近の国産車 プリウス,フィット インプレッサなど |
主に欧州廉価車 500,up!,ソリオ など |
主に欧州高級車 ゴルフ,ポルシェ フェラーリなど |
*1 クリープ現象は擬似的に再現しているメーカーも多い。
*2 モーターアシスト付き変速の場合。
それぞれ利点・欠点がありますね。構造的には大きく2種類に分けられます。
- スムーズな自動変速を実現するためにトルコン式ATを開発。世界中のメーカーが採用。さらなるスムーズさと燃費のために無段階式にしたのがCVT。
- MTの構造のまま、クラッチペダルと変速をそのまま自動化したのがシングルクラッチ式AT、シングルクラッチ式の動作のぎこちなさを解消したのがデュアルクラッチ式AT。
どれもAT限定免許で運転可能
4種ともATはATなので、オートマチック車限定免許で運転できます。稀に自動変速機能が無い(マニュアルモードしかない)車もありますが、その場合にもAT限定免許で問題ありません。AT限定免許は「クラッチペダルの操作が無ければ良い」と解釈してください。
ちなみに自動変速機能の無い場合は「セミAT」や「2ペダルMT」と呼ばれる場合がありますが、違う意味で使われる(自動変速のAMTやDCTを含むなど)場合があるので注意してください。国内ではトヨタ・MR-S(1999~2007年)が「シーケンシャルMT」として自動変速機能の無いシングルクラッチ式ATを採用していました。
シングルクラッチ式AT
シングルクラッチ式AT(AMT)は、構造上はほぼMT車と同一です。MT車における「クラッチペダルの操作」と「シフトノブの操作」を単純に自動化したのがシングルクラッチ式ATです。MT車の良いところ、悪いところをほぼそのまま引き継いでいるとも言えます。
シングルクラッチ式ATの最大の特徴は「クセが強い」ということです。欠点もたくさんありますが、うまく乗る方法を身に付ければメリットを享受できます。
コストメリットの高さから欧州の低価格車(主にAセグメント・Bセグメント)での採用例が多いです。他には最近スズキが「AGS」という名でシングルクラッチ式を積極的に採用しています。変速時に特殊制御(後述)するソリオハイブリッド以外はクセが強いので、安易に選ぶと痛い目をみますよ。
シングルクラッチ式ATのメリット
滑りが無い
トルコン式ATとCVTは、構造上トルクコンバーターでの滑りを完全に無くすことはできません。エンジン出力の一部が滑りによって失われます。この滑りは出力と燃費を悪化させるだけでなく、運転フィーリングを悪くします。MT車の運転に慣れた人がトルコン式ATに乗ると、滑りによる一種の気持ち悪さを感じます。アクセルペダルを踏み込むとエンジンの回転数は上がるのに、実際に速度が上がるまでにタイムラグがあるからです。
MT車では、クラッチ(断続器)ペダルを離せばエンジンの回転とタイヤの回転が完全に一致します。このダイレクト感をそのまま実現したのがシングルクラッチ式ATです。
シングルクラッチ式ATは、後述するように変速時に大きなデメリットを抱えています。ですが変速頻度の低い巡航中はダイレクト感の方が重要です。定速巡航する機会の多いヨーロッパで採用される理由の一つが、巡航時の性能ですね。
部品の共通化によるコストカット
シングルクラッチ式ATは、構造的にMTと同一、つまり大半の部品を共有できるわけですね。MT車が半数以上を占めるヨーロッパでATを設定しようとする場合、MT車を単純に自動化するシングルクラッチ式ATは開発・製造コストを抑えられます。
一方日本のようにMT車があまり売れない国では、MTがそもそも設定されない車種も増えてきています。するとシングルクラッチ式のコストメリットは無くなります。ただし日本でMTの設定が無くても、輸出向けにMTが設定されている車種も多いので、その場合はメリットになります。
シングルクラッチ式ATの採用がヨーロッパ車に多いのは、MT車の感覚を基準にしているからです。
シングルクラッチ式ATのデメリット
変速フィールの悪さ
最大のデメリットは変速フィールの悪さです。
MT車での加速中の変速は以下の手順で行われます。
[ペダル操作 → ノブ操作 → ペダル操作]の間は、エンジンとタイヤが接続されていない状態になります。なので、この間は推進力がありません。加速中に一時的に推進力がなくなるので、乗っている人の体は慣性で前に倒れます。この間0.5秒程度。
シングルクラッチ式ATも全く同じことを自動で行うので、同じことが起きます。MTでは問題にならないのに、シングルクラッチ式ATで問題になるのはタイミングが予想できないからです。MTでは運転手が自分で操作するのでどういう動きをするのか分かっていますが、シングルクラッチ式ATの場合アクセルを踏んでいるのに不意に加速が途切れることになります。これがフィーリングの悪さの正体、「トルク抜け」です。
ちなみに運転手以外の乗員にとっては、MTもシングルクラッチ式ATも「不意な変速」なのは同じ。変速時の動きはMTと同じなので問題にはなりません。
シングルクラッチ式ATでは、総じて動きがぎこちないと言われます。
発進のスムーズさは制御次第
発進時は、MT車と同じく半クラッチ操作をします。発進のスムーズさは制御システムに依存しています。マニュアル車の発進が運転手の技量に依存しているのと同じですね。
クリープ現象が無い
トルコン式AT車では発進時にクリープ現象(ブレーキを離すと低速で発進する)が発生します。ブレーキを離すだけで少しだけ進むので発進がスムーズ、駐車時の操作が楽なほか、クリープ現象を積極的に活用すれば燃費の向上も期待できます。シングルクラッチ式ATではこのクリープ現象はありません。特別な制御をしていない場合、ブレーキを離しただけでは発進せず、アクセルを踏んだときにクラッチを繋いで発進します。クリープ現象が無いことには2つの問題があります。
一つは扱いにくさです。アクセルペダルだけで発進を制御するので、駐車時など少しだけ車を動かしたいときには[アクセルを踏んで、少し動いたらブレーキ]というやりにくい操作を強いられます。MT車の場合はクラッチペダルで推進力を調整できることから、ごく低速ではMT車よりも扱いづらいです。
もう一つは坂道発進です。ブレーキを離した時にはタイヤは空転可能状態(ニュートラルと同じ)になります。坂道では重力に従って動いてしまいます。上り坂での発進では少し下がってからクラッチがドン!と繋がって発進することになります。下がることによる危険性と不安、発進時のショックが問題になります。
特別な制御
シングルクラッチ式ATのデメリットを解消/軽減するために、特別な制御を行う場合があります。制御の内容や完成度は車種に依存します。
特別な制御(1):発進時の補助
疑似クリープ現象
発進のしづらさを軽減するために、疑似的にクリープ現象の動きを再現している場合があります。この機能はほとんどのシングルクラッチ式・デュアルクラッチ式AT車で採用されています。
疑似クリープ現象が装備されている場合、ブレーキペダルを離すとゆっくり発進します。動きはトルコン式AT車と同じですね。最近のモデルではトルコン式との違いに気づかないほどに自然に発進してくれます。
ヒルホールド
坂道発進の場合、疑似クリープ現象だけでは推進力が不足して下がってしまうことがあります。そこである程度以上の上り坂ではブレーキペダルを離してから一定時間ブレーキを自動で保持(2秒程度)し、後ろに下がることなく発進できるようにしてくれます。これがヒルホールド機能です。
ヒルホールド機能が発動する傾斜の基準や、ブレーキを保持する時間、発進に切り替わるときのスムーズさは車種ごとに違います。例えばうちのアルファロメオ・ジュリエッタ(デュアルクラッチ式)にもヒルホールド機能がついていますが、ギリギリ下がってしまう程度の軽い上り坂では発動してくれません。
疑似クリープ現象ほどではありませんが、ヒルホールド機能も採用車種が増えてきています。車種によってはグレードによって装備の有無が違う場合もあります。
特別な制御(2):変速時のトルク抜け対策
もっと特殊な例では、変速時のトルク抜けを軽減するために、エンジン駆動力が断絶されている間をモーターの駆動力で補う車があります。
スズキ・ソリオのハイブリッドモデル(スズキがフルハイブリッドと呼ぶ方)にはシングルクラッチ式AT「AGS」が搭載されています。元々ハイブリッド車なのでエンジンとモーターを両方搭載しています。変速時に駆動力が抜ける瞬間、モーターで駆動力を補うことでトルクが途切れないようにしています。シングルクラッチ式ATにおいてこの効果は絶大で、シングルクラッチ式ながらぎこちなさを感じさせない自然な変速を実現しています。
ただしこんな特殊なことをしているのはソリオ(とおそらく以降のスズキ車)以外に知りません。大半のシングルクラッチ式ATは変速時がぎこちなさを解消できていません。
シングルクラッチ式ATをうまく運転するには
変速時に大きなデメリットを抱えるシングルクラッチ式ATですが、運転の仕方次第で問題をある程度軽減できます。ただしMT車を運転したことが無い人にはハードルが高いかもしれません。
手動で変速操作を行う
まず、変速操作を運転者自身が行うことです。ほとんどのシングルクラッチ式AT車には、ギアを運転者が選択できるマニュアルモードが搭載されています。
トルク抜けのフィーリングの悪さは、変速が「不意に」起きることが一因です。ですから、自分でギアを選ぶ場合は変速タイミングが分かって違和感が軽減されます。
加速時の変速では、変速時にアクセルペダルを離す
さらにもう一歩進んで、変速する瞬間にアクセルペダルを離すという方法があります。
変速中はアクセルペダルを踏んでいても、変速動作の間はアクセルが一旦閉じます。[自動アクセルオフ → 変速 → 自動アクセルオン]となるわけですね。レバーを倒してから実際に変速動作が起きる(=アクセルオフになる)までにはタイムラグがありますし、変速が完了して再度駆動力が発生する(=アクセルオンになる)タイミングを正確には予想できません。この1秒以下の動作も運転者にとっての違和感に繋がります。
そこで、変速時のアクセルオフ/オンを運転者が操作しようというわけです。変速するときは[アクセルペダルを離す → レバーを倒す → 再度アクセルを踏む]という操作をします。こうすると、クラッチ操作が無い以外はほぼMT車と同じ動きになるので、ほとんど違和感なく運転できるようになります。
操作のタイミングには慣れが必要なので、少しずつコツを掴んでいってください。
ここまでするならMTでいいだろ!と思ったあなた。その通りです。ぜひMTに乗ってください。でもMTを選べない場合もよくあります。家族がAT限定免許、欲しい車にシングルクラッチATしか設定が無いなど。そもそも自分がAT限定な場合もあるかもしれません。それに詳しく知らずに買った車がシングルクラッチ式ATだったという場合もあるでしょう。
シングルクラッチ式AT車を最大限快適に乗るためには、ぜひこの乗り方を練習してください。慣れてくるとダイレクト感のメリットが引き立つようになって、トルコン式やCVTよりも運転しやすく感じるかもしれませんよ。
まとめ
MTってダイレクト感あって素晴らしいよね!でもクラッチ操作と変速操作は面倒だからそのまま自動化しちゃえ!という発想のままに作られたシングルクラッチ式AT。でもクセが強いのでAT車しか乗ってこなかった人には乗りづらく感じるでしょう。
上に挙げた表からも分かるように、デュアルクラッチトランスミッションは価格以外のすべての面でシングルクラッチ式を上回っています。コストこそかかりますが、性能やフィーリングは圧倒的に上です。