ポルシェボクスターS試乗レビュー!MRなのにFRっぽい走り?ターボになる前に乗っておけ

     2015/08/12

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ポルシェのエントリースポーツカー「ボクスター」を試乗してきました。ポルシェヒエラルキーでは安価なスポーツカーとして設定されているものの、スタート価格は687万円。次期モデルでは伝統の水平対向6気筒エンジンではなく直列4気筒のモデルが用意されるとの話もあるボクスター。歴史あるポルシェはどんな走りを見せてくれるのでしょうか?

新型マツダ・ロードスター(4代目・ND型)の開発者によれば、開発目標はポルシェ・ケイマン(ボクスターのクローズド版)とのこと。ライトウェイトスポーツの最高峰ロータス・エリーゼがロードスターとは違う方向性だったので、ロードスターをルーツが知りたかったということもあります。

今回は走りと実用性をレビューします。

走り

乗ったのは、3.4L 直列6気筒 自然吸気エンジンを搭載する「ボクスターS」です。2.7L 自然吸気エンジンのベースグレード「ボクスター」より一段とハイパワーです。トランスミッションはデュアルクラッチの7速PDKです。ポルシェといえどもマニュアルの試乗車は用意していないようですね。

ボクスターは車体重量が公式サイトには書かれていませんが、ボクスターSのPDKモデルは1,390kgのようです。エンジンのサイズを考えれば十分軽量ですね。

次回のボクスターはダウンサイジングターボが採用されると言われています。ダウンサイジングターボでは低回転から過給されるのでフィーリングは上々ではあるものの、やはり排気量の大きい自然吸気エンジンのフィーリングには敵いません。自然吸気がお好みなら今のうちかもしれませんよ。

加速感

ノーマルモードでの加速感は、じんわりアクセルを踏み込む分には結構穏やかです。深く踏まなければグランドツーリングカー的なゆったりした乗り方も難なくこなせる走りです。スポーツドライビングを本気で楽しみたい人以外にもポルシェが売れている最大の理由はここでしょうね。安楽にも走れるスポーツカー。

ノーマルモードでもがっつり(8割以上)踏み込めばかなり切れ味の良い加速感でかっ飛んでいきます。ここはさすが3.4L。そして素晴らしいのは加速中のハンドリング。緩い上りカーブで急加速してみると、リアにしっかり荷重がかかりつつもフロントの安定した操作性を損なわずに、姿勢が崩れることなく加速しました。ロータス・エリーゼ や ホンダ・S660 で感じた回頭性が異様に高いミッドシップではなく、むしろFR(特にフロントミッドシップ)的ともいえる安定感での加速が体験できます。同じミッドシップスポーツでも思想が違うとこうも異なるのかと感動しました。

高性能自然吸気らしく、トルクに変なクセの無い素晴らしい加速フィーリングです。スポーツモードにすればアクセル開度と車速の感覚もほぼリニアで、やや過敏ではあるものの慣れれば思い通りに動かせるでしょう。

スポーツモードではアクセルの反応が機敏になって、がっつり踏まなくてもしっかり加速するためスポーツ走行がやりやすくなります。とは言っても日常走行がしにくいほどではないので、燃費を気にしないのであれば常にスポーツモードでもいいんじゃないかと思いました。

トランスミッション

トランスミッションの完成度は非常に高いです。基本的にはフォルクスワーゲンのDSGと同等だと思えば良いのですが、ダウンシフトの変速速度がフォルクスワーゲンやアウディより気持ち速いような気がしました。単に気持ちの問題かもしれませんが。シフトチェンジでのエンジン回転数の変化が超速なのはDSGと共通するところです。

変速タイミングはノーマルモード・スポーツモードともに違和感なく仕上がっています。欧州の厳しい燃費規制の影響もあってノーマルモードが実質エコモードになってしまう車が多い中で、なかなかの変速フィーリングを得られているのは嬉しいところです。ポルシェのディーラーマンによれば、MTの旧型ポルシェから乗り換えるのに、PDKの完成度の高さを実感して現行ではPDKを選ぶ人も多いとのこと。MTがオーダーベースに成り下がったのにはPDKの完成度も影響しているようですね。

マニュアルモードでの変速感は特に問題なく、DSGと同等でした。ただ「ポルシェ」という点ではシフト操作から実際のシフトチェンジまでの時間がもう一段階縮められていたらなぁとも思いました。VW・パサートアウディ・A4のDSGでのマニュアル操作の感覚とあまり違いが感じられませんでした。

足回り

加速感でも書いたように、FRなのかと錯覚するほどにニュートラルな動きになっています。

スポーツカーなだけあってロードインフォメーションは伝えてくれますが、路面の細かい凹凸はちゃんと吸収してくれるので乗り心地はかなり良いです。BMW・3シリーズやアウディ・A4あたりと比べても遜色ないほど。車内が狭いので休憩しやすくはありませんが、足回りだけで言えば6時間くらいの移動は余裕でしょうね。

コーナリングでのロールは車重の割には小さめでした。速度域が高くても安心してグイッと曲げられると思います。

エンジン始動音や回した時の音は、消音規制の厳しい現代の車とは思えないほど豪快な音を出してくれます。ロータス・エリーゼのような荒々しい音ではなく、調律された粒の揃った美しい音を楽しめます。特に幌を開けて低速で走っているときにシフトダウンするとDSGのブリッピングで「フゥオン」とフラット6の澄んだ音が聴けます。排気音の音量だけでなく音質にまでちゃんと気を遣っていることが伝わってきます。

使い勝手

走り出すまで

ポルシェともなると走り出すまでにすらこだわりが感じられます。エンジンをかけるときは、(山や溝のある)いわゆる鍵を挿すわけではなく、だからといって単にエンジンスタートボタンを押すだけという最近多い操作でもないという絶妙な操作方法になっています。キーレスのリモコン自体が挿さる形状の穴が開いていて、そこにリモコンを挿して回します。キーを回す動作はありつつも「キーそのもの」はありません。

「キーをひねる」という動作自体に価値があると見て、その動作を保ちながら現代風にアレンジした良い方式だなぁと感心してしまいました。ポルシェが(パナメーラやカイエンはさておき)純スポーツカーメーカーであり、かつ潤沢な資金力があるからこそ、こういったユーザーエクスペリエンスにも気を遣うことができるのでしょう。

まさしくこういう所を指して「プレミアムスポーツカー」というブランドが成り立っているのでしょうね。

ソフトトップ

ソフトトップ開閉は完全自動です。一切の操作をスイッチ一つでできるようになっています。パワーウインドウどころか車内のロックすら操作する必要がないのは嬉しいですね。

高級車なので幌の質感は高いですね。マツダ・ロードスターの幌も新型は結構よくできていますが、ボクスターはコスト(と重さ)が違いますね。幌の内張りにも高級感が漂います。

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気になったのはオープンにしてもサンバイザーがそのまま残ること。明らかに不要なパーツが飛び出ているみたいになっていて美しくありませんね。いっそ取り外してしまいたいくらいです。(実際、私がNBロードスターに乗っていた時は幌の開閉に邪魔だったのでサンバイザーを取り外していました)

世の中的には高級オープンカーを中心にクーペカブリオレ(電動ハードトップ)が増えていますが、ポルシェの場合はクーペ版のケイマンとの差別化もあって電動ソフトトップから変更する予定は無いそうです。幌車好きとしては嬉しいところですが、耐候性や防犯の点ではハードトップの方が安心ですよね。軽さ重視という意味もあるのでしょう。

トランク

ミッドシップエンジンなので大きなリアトランクは用意できませんが、フロントにもリアにもそれなりのサイズのトランクがあるので実用性は高いです。

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フロントトランク

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リアトランク

どちらのトランクも開口部はあまり大きくありませんが、深さが結構あるので搭載量は大きいです。リアトランクはエンジンが目の前にあるので熱が心配ではありますが、フロントはあまり熱くなるわけではないので食料品なのはそちらにしまいましょう。ただ、夏の場合はエンジン搭載位置など関係なく(=ボクスターに限らず)日光でトランクの温度が上がってしまうのでそちらの方が問題のようです。

まとめ

走りはプレミアムスポーツカーとして高度に完成されたものでした。安楽オープンカーに成り下がることはなく、純粋にスポーツカーとして高度な位置にいると思います。ややFR的にバランスされた走りには確かにマツダ・ロードスターが目標にしたことにも頷けます。エリーゼに感じなかったロードスターとの繋がりがボクスターにはありました。

ダウンサイジングターボになってしまう前に自然吸気のピュアなエンジンの純スポーツカーを堪能してみてはいかがでしょうか。

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