ダブルウィッシュボーンとマルチリンクって何が違うの? 仕組みと用途の違いを解説

   

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スポーツカーやスポーツセダン、高級車によく使われているサスペンション形式「ダブルウィッシュボーン」と「マルチリンク」。

何が違ってどちらがいいのかを解説します。

高性能の代名詞だった「ダブルウィッシュボーン」

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スポーツカーによく採用される高性能サスペンション形式といえば、ダブルウィッシュボーンが定番でした。

「ダブルウィッシュボーン」とは、鳥の叉骨が2つあることを表していて、上下にほぼ水平に設置された「A」のような形のアームがホイール取り付け部を挟む構造になっています。

ダブルウィッシュボーンは、独立懸架、高剛性で調整範囲が広く、動作時にタイヤに角度が付きにくいダブルウィッシュボーンはコストこそかかるものの、性能が求められるスポーツカーや高級車にはピッタリです。スポーツセダンなどでマルチリンクが台頭してきた現在でも、スポーツカーにはよく使われていますし、レーシングカーでは前後ともにダブルウィッシュボーンを採用することがほとんど当然のようになっています。

レーシングカーで使われていることから分かるように、単にサスペンションの運動性能だけで言えば現状最も優れた構造だと言えるでしょう。

「理想的」ではなく「最善」

レーシングカーでも使われるダブルウィッシュボーンですが、これでも「最善」なのであって「理想的」ではありません。

そもそもサスペンションはバランスが重要な部品です。バネやショックアブソーバーによる「硬さ」においても、柔らかいほど衝撃吸収能力は上がりますがフワフワして安定しない乗り心地になりますし、硬ければ安定性や運動性能が上がりますが、段差や轍でガタガタ揺れる乗り心地の悪い車になります。

コーナリングで車体は傾きますコーナリングで車体は傾きます

サスペンションによる運動性能で言えば、上下に動いたときにどれだけタイヤが傾くかという観点があります。障害物を踏んだときは傾かない方がより安定して良いですが、コーナリング時にまったく傾かないのは問題です。なぜなら、コーナリング中は遠心力で車体が傾きますから、もしタイヤが常に車体に対して垂直のままだったら、タイヤは地面に対して傾いてしまいます。自転車やバイクのように傾くことを想定した断面の丸いタイヤならいいんですが、自動車用タイヤが傾くと地面との接触面積が一気に小さくなってしまいます。つまりある程度傾いた方が良い。あちらを立てればこちらが立たず。車の性格によっても丁度良いサスペンションは変わります。

高度なバランスが求められるサスペンション開発でダブルウィッシュボーンが優れている理由は、どんな走行環境でも完璧な性能だからではありません。調整できる範囲が広く、開発者やユーザーがより理想に近づけやすいからです。

ダブルウィッシュボーンとマルチリンク

最近では高級セダンや高性能車を中心にマルチリンクの採用が進んでいます。ダブルウィッシュボーンに比べると比較的新しい構造のサスペンションで、特にセダンやハッチバックのリアサスペンションとして多く採用されています。

実はダブルウィッシュボーンとマルチリンクは本質的には同じサスペンション形式です。

ダブルウィッシュボーンは場所を取る

ダブルウィッシュボーンは上下に大きなアームがある

ダブルウィッシュボーンには大きなアームを2つ上下に設置する必要があり、どうしても場所を取ります。走るために作られたレーシングカーやスポーツカーではあまり問題になりませんが、実用性も相応に求められるセダンやハッチバックでは問題です。

そこで、ダブルウィッシュボーンの大きなアームの代わりに、複数のリンク棒で同じ動きを再現しているのがマルチリンクです。リンクの場所や可動方向は緻密に計算されていて、ダブルウィッシュボーンと同様の性能が発揮できるようになっています。

マルチリンクのメリット

マルチリンクの大きなメリットは、リンク位置の自由度が高いことです。

ダブルウィッシュボーンと同じ動きが再現できればリンク棒の位置は自由に変えられるため、後部座席やトランクの使い勝手をできる限り損なうことなく高性能なサスペンションを採用することができます。

マルチリンクのデメリット

一方デメリットは開発費やメンテナンスコストが上がることです。

仮想的にサスペンションを組むので設計は複雑になります。最近はコンピューターの発展が著しいので負担は減っていることと思いますが。

サスペンションの性能を維持しようとする場合、リンクを固定している「ブッシュ」と呼ばれるゴム製の部品を定期的に交換する必要があります。ブッシュ交換自体は他のサスペンション形式でも発生するものですが、マルチリンクは部品点数や分解・組み付け工数が多いためにメンテナンス時の費用が高くなりがちです。設計が悪いと一部のブッシュに負担が集中して劣化が早くなる可能性もあります。

まとめ

ダブルウィッシュボーン マルチリンク
性能 とても高い 高い
設計コスト 高い さらに高い
メンテナンスコスト 普通 やや高い
設置自由度
(≠設計)
低い やや高い

マルチリンクは、ダブルウィッシュボーン並みの性能を持ちながら、設置自由度が高いため、車内スペースを犠牲にできない高性能車で用いられています。

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