ロードスターRFでは「若者の車離れ」を改善できない!要因と実情をマジメに分析
2016/12/18
11月10日に国内での予約が開始されたばかりのマツダ・ロードスターRF。この発表会で、マツダ社長が「若者のクルマ離れを何とか改善したい」と語りました。
でもコレでは色々実情にそぐわないんじゃないでしょうか。
「若者の○○離れ」なんて言われるようになって久しいですが、自動車メーカー社長の発言ですし、詳しく分析してみることにしました。
目次
ロードスターRF発表会での発言
マツダの小飼社長がロードスターRFの国内予約開始に伴う新車発表会で、このように語りました。
ロードスターRF投入の狙いは、いわゆる若者のクルマ離れに対して、何とか改善したいとの思いがある。
私は学生の頃、車を持っていなかった。ただ友人が結構、車を持っていて登校する時や街に出掛ける時、あるいは実家に帰省する時に助手席に座らせてもらって、本当に車に乗るのは楽しいなとか、社会人になったらすぐ車を買っていろんなところへドライブに行きたいというように、私にとって車を所有することが憧れだった。今の若い人たちにもそうなって欲しいと思っている。
ここまで読んで「若者に324万円のロードスターRFは高すぎるだろ!」なんて早とちりしてはいけません。続けてこう語っています。
車を所有することに憧れた私のような年代の人達(注:小飼社長は62歳)に是非、この商品に乗って今一度、運転する楽しさを味わって頂きたい。そして街の中を格好良く運転してもらいたい。そうすることでお子様やお孫さんも、いつか必ずこういった車に乗ってみたいと思ってくれると思うし、若い人たちにも同じように考えて頂ける。それによって国内の車の需要に少しでも貢献できればという願いを込めて開発した。
※ 強調・注書きは著者による。
62歳なんて世の中的には定年を迎えた人もいる世代。要するにお年寄り、もっと言えば老人じゃないですか。つまり概略するとこういうこと。
- 昔は車が憧れだった。周りが車を持っていたのがキッカケ。
- 金を持った年寄りが乗って、若者に乗りたいと思わせろ。
そんなこと言っても、実情には合っていないのではないでしょうか。
(一応言っておきますが、私は「若者」と呼ばれる年齢層です。私は車好きですが、周りに車を所有している人はあまり多くありません。)
「若者のクルマ離れ」を作る3つの要素
「若者のクルマ離れ」なんて言われるようになって久しいですね。「若者の○○離れ」の代表格とも言える言葉です。色々ツッコミどころがありますが、マジメに分析してみましょう。
そもそも若者は何からも離れていない
そもそも、「若者の○○離れ」なんて言っているのは年配の人たちです。自分たちが若い頃の常識を今の時代に無理矢理当てはめようとして、「最近の若者は○○だ。自分の頃は違ったのに。」とかいう理論で話を展開しています。
今を生きる若者にとっては今だけが常識です。過去にどうだったかなんて関係ありません。昔の若者=現在の年寄りが車を買うのが当然だったことは、今の若者が車を買うかどうかに関係ありません。
多くの若者が現在の状況下で、「車を買わない」になっているだけです。社会情勢、景気動向、平均収入、流行などなど、ここ数十年で色んなコトがめまぐるしく変化しています。昔の常識の枠で考えること自体がそもそもの間違いです。
もっと分かりやすい所で、昔と比較して若者の文通離れとか若者のラジオ離れ、若者の電話帳離れとか言っても失笑を買うだけですよね。要するに時代が違うってだけのこと。インターネットやスマートフォンが普及してコミュニケーションの手段がガラリと変わったように、何に価値を感じてお金を掛けるかが昔と違うだけです。
………。
でもこれだけでは話が終わってしまいますね。昔と照らし合わせて、最近の若者の多くが車を買っていない、あるいはあまりお金を掛けなくなった理由を挙げてみましょう。
重要度順に「車を持てない理由」「車を欲しくない理由」「車が欲しくても買わない理由」です。
車を持てない:収入の減少・将来への不安
若者が車に乗らなくなった理由を、スポーツカーがどうだとか、ドライブデートがどうだとかの話題から入る人は現実を分かっていません。そもそもまずお金です。
高度経済成長期ならいざ知らず、バブル景気のような好景気時代を知っている人は「お金を使う」ということにあまり恐れがないかもしれません。人々がお金を使うことで経済が周り、景気が良くなる。むしろ持続的なインフレーションの下では、「お金を使わない」ことへの不安があったこどでしょう。
1980年代以降に生まれた人は、そういう時代を知りません。子供の頃に見たニュース番組では不景気だ、倒産だ、リストラだと不安を煽るような言葉ばかりで、日本全体が子供が将来に経済的な明るい希望を持たないように育てていたように感じます。収入の大小以前に就職自体が難しく、辞めたくても辞められない若手につけ込むブラック企業が蔓延。これで将来に希望が持てますか?
それに収入自体も減少しています。20代の平均年収で見ると、ここ20年で10~20%程度減少しています。物価の変動はあまりありません。仮に半分が衣食住などの費用(=変動していない)とすると、自由に使えるお金は20~40%も減少しているということ。そして低所得者層ほどその下がり幅も顕著です。
昔はなかった携帯電話も今では持たない人を探す方が困難。スマートフォンなら本体が数万円、月額5,000~10,000円で普通です。ある意味、年収が十数万円減っているとも言えます。
少ないお金の中から、欲しいもの・やりたいことを厳選してお金を出す。車がそこに残らなかっただけのこと。
車を欲しくない:車以外の趣味が成り立つ
昔はお金を掛けるような娯楽が限られていました。だからみんなで同じ趣味にハマる。スキーが流行してあっちこっちにスキー場ができたり、ボウリングが大流行してこれまたあっちこっちにボウリング場ができたり。(今ではほとんど経営難で閉鎖していますよね)
最近は何かが異様に大流行するなんて聞きませんね。みんなで同じ趣味をするのが当然という時代ではなくなりました。SNSの発達によって同じ趣味を持つ人を見つけることが簡単になったことも一因でしょう。わざわざ(リアルの)身近な人に合わせる必要がないということ。
テレビやプロ野球の人気が低迷しているのも似ています。普段からテレビを見ていて当然。家にいるときの娯楽はテレビくらいしかないし、話題に上がるから見ないわけにもいかない。スポーツと言ったらみんなプロ野球見てるし、他のスポーツが見たくてもテレビ中継なんてプロ野球しかやってない。そんな環境だからみんなが同じ趣味を持っていたわけです。
今は違います。パソコン、アニメ、マンガ、映画、音楽、グルメ、旅行、ゲーム、アイドル、車、鉄道、釣り、アウトドアなどなど、どんな趣味でも簡単に成り立ちます。同じ趣味を持つ仲間も見つかるし、マイナーなイベントの情報も得られる。全国展開していなくてもネットで買えるし、ブログで情報発信までできる。マイナーな趣味は昔なら結構な労力をかけないと成り立たたず、「ちょっと興味がある」程度の人は周りがやっている趣味に流れたことでしょう。昔の周りと同じ趣味を共有が、今は自分ならではの趣味を共通の仲間と共有に変化しました。
そしてそれは相乗効果を起こします。
昔の若者は車を持っているのが当然。だから周りと出かけることも簡単でした。すると出かけるタイプの趣味(スキーやアウトドア)が流行する。流行の趣味をやるために車を持たない人も車を買おうとする。だから車を持っていて当然になる。みんな車を持っているから、カッコいい車を持つ人に憧れる人も多くなる。
今はネットを介して(車以外の)趣味を共有できる。ネット上だけで会わないことも多いし、会うとしても一緒に出かけるわけでなければ車は不要。車を持たない人が多いから車が無くても浮かないし迷惑もかからない。だから車を持ちたいとも思わない。自分も周りもほとんど車が無いから、カッコいい車に憧れる理由もキッカケも無い。
車を欲しくても買わない:安くて欲しい車が無い
最後に車種の話。憧れるような手が届く車が無い。
例えば大ヒットしたスポーツ/スペシャリティカー(デートカーとも)の日産・シルビア。バカ売れしたS13型の初期モデルは1988年発売でスタート価格は147万円! ホンダ・インテグラは1989年発売でなんと119万円! これで車高が低い2ドア5人乗りクーペですから、そりゃ人気にもなります。ホンダ・ビートなんかは軽自動車ながらミッドシップオープン2シーターで139万円です。
現在150万円以下で買える車は、軽か安いコンパクトカーのほぼ二択です。軽のS660とコペンは価格範囲外、他は格安実用車なので論外。普通車は安い方から、パッソ/ブーン、マーチ、ヴィッツ、フィット、スイフト、デミオ、ミラージュ、イグニス、ラクティス、ソリオ、ラティオ、カローラアクシオ、ノート。ときめきますか?
どれもみんな似たようなのばっかりですね。Bセグメントコンパクトカー、太った軽、老人向けのセダンのいずれかです。
収入は減っているのに、若者が買いたくなる手頃な車は無い。これでは車を買わなくなって当然です。
安い車が実用車ばかりになったことの原因には、衝突安全性能や環境規制が厳しくなったこともあるでしょうが、おそらく一番の理由は売れないからです。
このような負のスパイラルが回っていきます。今や若い人向けの車なんてほとんどありません。あるのはこの
- 万人に向けた実用車:軽自動車,コンパクトカー
- 容積と定員が価値だと思う人&大家族向け:ミニバン
- 金のある中高年向けの車:中上級セダン,スポーツカー
スポーツカーなんて、今や中高年をメインターゲットに作っています。86しかりZしかり、ロードスターやS660だって一番買うのは中高年です。だからデザインも走りもマーケティングも価格も中高年層を満足させられるように作る。だから若者が買えない・買わない。当然の結果です。「昔スポーツカーを買えなかった人に向けて作りました」とか言ってるスポーツカーばっかりですからね。
コペンやS660が180万円以上、86/BRZやロードスターで250万円、フェアレディZで400万円クラスです。こんなの買えないよ……。だいたい高価なのに実用性が低いのなんて、余裕のない若者には無理です。
最近のテレビと同じ
最近のテレビ番組、若者にとってはつまらなくなったなぁと思うことが多いです。理由は車とほとんど同じ。
[テレビ以外の娯楽が増える]→[若者がテレビをあまり見ない]→[視聴者の大半を中高年が占めるようになる]→[中高年向けの番組が多くなる]→[若者にはつまらないからさらにテレビを見なくなる]
最近はゴールデンタイムに生活の知恵とか中高年の病気とかばっかりやってるじゃないですか。もはやテレビ見てるのはほとんど中高年なんですよ。購買力があるのでCM効果が高いですしね。
ロードスターRFはその対策になるか
さて、冒頭に挙げたロードスターRFの話です。ロードスターが「若者のクルマ離れ」の対策になるでしょうか?
私は効果はかなり限定的だと思います。
- 老人が高価なスポーツカーに乗っていても「カッコいい → 自分も欲しい」ではなく「金持ってていいよなー」にしかならない
- スポーツカーに乗る老人を「カッコいい」と感じる人は少ない
- 欲しくなっても若者が買える車なんて無い
結局「スポーツカーが売れれば若者が車を買うようになる」なんて幻想なんですよ。
3つ目については安くて面白い車をメーカーが作ってくれれば良いんでしょうが、経営規模的にマツダには難しいでしょうね。ロードスターがあるだけでも十分スゴい。
小飼社長の発言を振り返ってみましょう。「お子様やお孫さんも、いつか必ずこういった車に乗ってみたいと思ってくれると思うし、若い人たちにも同じように考えて頂ける。」
今の状況ではそのいつかは老人になるまでやってこないように思います。
まとめ
高齢化が進む社会では、少数派である若者にとって住みやすい社会ではありません。そんな社会で生きているのに、車みたいにお金がかかる(物理的にも経済的にも)大きな買い物をどんどん買えるはずがありません。ましてこんな時代に車を買えば、「高いのによく買ったな」「別に車なんて無くても困らないだろ」とか言われます(実際言われました)。
この環境で若者に車を買わせようとするのが、そもそもの間違い。やるべきことは以下のどちらか。
- 若者が欲しくなって、しかも買えそうな車を作る。
- 乗り出し150万円以下、2+2以上には実用的で、カッコいい、とかね。
- そもそも若者なんて切り捨てて、売れる年寄り向けの車&実用車ばっかりにする。
- 「若者のクルマ離れをなんとかしたい」とか言うなよ。
トヨタみたいに経営的に余裕があるところが挑戦したら面白そうなんですけど、まぁ車好きは往々にしてトヨタが好きじゃない人が多い(というか面白いことをしない会社)なのでねぇ。ホンダ・インテグラとか日産・シルビアみたいなのをちゃんと若者向けに出してくれたらいいんですが、みんな復活しても気持ちだけ若い老人向けになるんでしょうね……。