トヨタアクア試乗レビュー!なぜ売れるのか?プリウスと何が違う?
2017/02/24
トヨタ・アクアに試乗してきました。
プリウスと並ぶトヨタのハイブリッド専用車はどんな走りなのでしょうか? なんであんなに売れるの?
目次
トヨタ・アクアってどんな車?
トヨタ・アクアは、平たく言えばヴィッツハイブリッドです。
ただし、ヴィッツとは別車種です。2017年1月からはヴィッツにハイブリッド仕様が追加されたので、ただの「ヴィッツのハイブリッド版」とも言えなくなりました。当のヴィッツハイブリッドはアクアよりも完成度が低いです↓
プリウスをはじめとするトヨタ式ハイブリッドの成功を踏まえ、エントリーハイブリッド車として投入されたのがアクアです。車格はヴィッツやフィットと同じコンパクトカー(Bセグメント)クラス。発売当時(2011年)のスタート価格は169万円(まともな装備だと179万円)と、コストがかかりやすいトヨタ式ハイブリッドとしては破格の安さでした。
ヴィッツとは別車種になった理由
単にヴィッツのハイブリッド仕様車を追加するなら名前もデザインもそのままで「ヴィッツハイブリッド」にすれば良さそうですよね? でもそうしなかっのには理由があります。
一番の理由はハイブリッド車であることをアピールするためです。プリウスの「ハイブリッド専用車」というインパクトは非常に大きく、車格という枠組みを外れた特別な車のように扱われています。フィットやクラウンにハイブリッド仕様車があっても「ハイブリッド車だなぁ」とは思いませんよね。
ハイブリッド専用であることは一部の人にとっては非常に大事なことです。今やハイブリッド車は「環境問題を憂慮」「最先端技術」「高級車」といった良いイメージを伴っています。ハイブリッド専用車であれば「私はハイブリッド車に乗っています!」と周囲にアピールできるわけですね。要するに見栄です。後にハイブリッドのマークが付いただけのヴィッツでは自慢できませんからね。
大ヒットした2代目プリウスから13年、アクアの発売からも5年が経ち、見栄を張りたい人たちに十分にハイブリッド車が行き渡ったところで選択肢を増やすためにヴィッツにもハイブリッド仕様が追加されたわけです。あまりにハイブリッドが人気すぎてハイブリッドの設定が無いと候補から外されることもあるようですしね。
私にはそんなにもハイブリッドを手放しに褒める気持ちが分かりませんけどね。たしかに静粛性や燃費の良さは光りますが、静粛性はエンジン停止時の話で巡航中は普通レベル、燃費は高価なハイブリッドシステムをペイできる(元が取れる)程ではありませんからね。
アクアとヴィッツの違い
ヴィッツにハイブリッドが追加されたことで、アクアとヴィッツハイブリッドの違いはほとんど無くなりました。
発売当初のアクアは外観デザインがちょっとダサめでしたが、マイナーチェンジ後は野暮ったさが軽減されました。
アクアとプリウスの違い
BセグメントのアクアとCセグメントのプリウスは明確に差が付けられています。車体サイズの差はもちろんですが、エンジンサイズや走りの質は明らかに異なります。
中でも誰にでも分かりやすいのは内装の質ですね。プリウスは同クラス(200万円台)の車と比べても遜色ない程度のクオリティがありますが、アクアは価格だけ見ると信じられないくらいの質感です。やはり180万円程度でトヨタ式ハイブリッドを丸々積もうとすれば、どこかにしわ寄せが来ます。アクアの場合は内装の質が犠牲になりました。
走り
加速感
発進・低速加速はさすがハイブリッド車。モーターはプリウスより非力とはいえ、他のガソリンエンジン車より明らかに強力なトルク感で発進してくれます。
この領域で直接対抗できるのは日産のノートe-POWERくらいでしょう。ノートe-POWERは駆動力源がモーターのみなので低速は得意です。テスラみたいに尋常じゃない加速をしてくれるわけじゃないですけどね。
エンジンは1.5Lですが、燃費重視のためか高回転まで回してもあまりパワーが伸びません。なんと最高出力回転数は4,800rpm。まったく回らないエンジンなんですね。エンジンが非力なのでモーターと合わせてやっと普通の1.5Lコンパクトカーくらいの走りです。速度域が上がるほどエンジンの非力さが目立ってしまい、車が重たい感じが出てきてしまいます。
加速感からすれば市街地に向けた車だということが分かりますね。そもそもハイブリッド自体が発進・停止の多い市街地向けのシステムなのですが、アクアは設計上も高速巡航に向かないように作られています。苦手ながら巡航も問題ないプリウスとは違いますね。
走行モード
アクアにはエコモードとEVモード(エンジンを使わない)があります。プリウスにあるスポーツモードはアクアにはありません。
エコモードに切り替えるとたしかにアクセルの反応が悪くなります。ですがオーリスハイブリッド(=3代目プリウス)のエコモードのように「全然加速しない」という感覚ではありません。反応は悪化しますが、よくある1.3Lコンパクトカーのような感じになるだけですね。通勤などならエコモードでも問題なさそうです。
静粛性
このクラスのコンパクトカーとしてはかなり静粛性が高いです。発進時にエンジンが止まっていれば静かなのは当然ですが、遮音性も良いようでエンジンの始動音や車外の騒音はあまり気になりません。
ハイブリッドシステムを載せて上がってしまう価格を抑えるのに、遮音性を犠牲にする可能性もあったでしょう。でもアクアはそれをしませんでした。もし遮音性が高くなければ、ハイブリッドシステムはただの燃費向上手段になっていたでしょう。でもアクアは遮音性の高さによって「静かに走る上質さ」をこの価格で実現しました。これがアクア一番の魅力です。
ただ、静かに走るなぁと重いながら手元を見ればダッサいステアリングに安っちいスイッチパネル。シフトノブはただ棒が生えているだけ。上質なのは走りだけです。上質さに見合う内装を手に入れようとすれば、少なくともプリウス以上にする必要があります。
他の車と比較すれば、エンジン動作時の静粛性ではマツダ・デミオが同等レベルです。シリーハイブリッドのノートe-POWERは全くダメ。静粛性が悪すぎてせっかくのハイブリッドのメリットを半分失っています。
フォルクスワーゲン・ポロもなかなか頑張っていますが、ゴルフとの落差と価格を見ると買う気が失せます。頑張っているアクアといえども、プリウスと比べればやはり静粛性はやや劣ります。
ドライビングポジション
シートの質感やホールド性は国産コンパクトカーとしてはなかなか良好でした。ヴィッツよりもやや着座位置が低いので安心感があります。車高もヴィッツより5cmほど低いですからね。
試乗したのはカタログモデルの中で最も高い「X-URBAN」で、シートの材質はレザー+ファブリック。シート形状自体は一番下の「L」以外はすべて同じですが、座ってみた感覚ではフルファブリックの「S」のシートはやや柔らかめでした。
チルトステアリング(上下調整)はもちろん、最下位のLグレード以外はテレスコピック(前後調整)もあるのでステアリング位置もちょうど良く合わせられます。ステアリングデザインが残念ですが。
価格を抑えただけあって、フットレストがありません。ですが左足を置く辺りが盛り上がった形状になっているのであまり問題ありません。
その他注意点
バックモニター
試乗した車は大きなディスプレイ(9インチ)が付いていましたが、バックモニターは操舵表示非対応でした。トヨタの純正ナビなら当然表示してくれると思ったので驚きました。操舵表示の条件については要チェックです。
X-URBANの燃費
燃費は「X-URBAN」だけが33.8km/Lで、他は37.0km/Lです。なんで「X-URBAN」だけが悪いのか。それは車重です。
燃費基準「JC08モード」では、車重をいくつかの枠に区分して、車重に対応した重りを載せて測定します。その区分の境界が1,080kg。X-URBANだけが1,080kgを超える1,090kgなので、他より10%近くも悪くなってしまいました。
10kgの差では実用燃費にこんなにも影響しませんし、車体サイズの差もわずかですから、X-URBANだけが燃費が悪いなんてことはありません。燃費基準が悪いだけです。
スペック
車種 | トヨタ・アクア | トヨタ・ヴィッツ |
---|---|---|
グレード | S | ハイブリッドF |
全長 | 3,995 mm | 3,945 mm |
全幅 | 1,695 mm | |
全高 | 1,455 mm | 1,500 mm |
ホイールベース | 2,550 mm | 2,510 mm |
車重 | 1,080 kg | 1,100 kg |
駆動方式 | FF | |
トランスミッション | CVT | |
エンジン形式 | 直列4気筒 | |
排気量 | 1.5L ガソリン+モーター | |
最高出力 | 74ps / 4,800rpm | |
最大トルク | 11.3kgm / 3,600-4,400rpm | |
フロントサス | ストラット | |
リアサス | トーションビーム | |
燃費 | 37.0 km/L (2.7 L/100km) |
34.4 km/L (2.9 L/100km) |
価格 | 189 万円~ | 182 万円~ |
まとめ
全体に漂うイイクルマ感(内装除く)。これがアクアの全てです。
熟成の進んだトヨタのハイブリッドシステムは滑らかかつ上質な走りを提供してくれます。そしてモーター走行のメリットを最大限生かすのがたかい静粛性。車のことがよく分からない人でも、「なんか良いクルマだなぁ」と感じさせてくれます。そしてそういう人にウケたからこんなにも売れているわけですね。
ただし内装はダメダメです。170万円どころか130万円くらいの国産コンパクトカーよりもデザインや質感が劣ります。国産コンパクトカーにトヨタ式ハイブリッドを載せたら200万円になるところを、内装の質を削って180万円で売っているんですから。
プリウス以上に高速巡航には向きません。あくまで市街地走行しかしない人が(内装以外の)高級感を得ようとすればアクアに行き着くのかなぁと思います。高速も走るならデミオにしましょう。
ヴィッツハイブリッドの試乗レビューはこちら↓
現行プリウスの試乗レビューはこちら↓