マツダ・RX-VISIONが市販される可能性は?ロータリー復活は結構厳しそう

   

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ロータリーエンジンを想定するコンセプトカー「RX-VISION」がついに発表されましたね!

気になって仕方がないので、東京モーターショーで実際に見てきました。超絶カッコ良かったんですが、市販化への道は厳しそうです……。

今分かっている情報を整理して市販化への道のりを考えてみましょう。

ロータリーエンジンを取り巻く状況

今年の東京モーターショーにおけるマツダのメインディッシュはもちろん「RX-VISION」です。ロータリーエンジン搭載を想定したコンセプトカーです。

ロータリーエンジンを搭載した市販車は2012年にマツダ・RX-8が生産終了したことで途絶えてしまっています。もう3年になりますね。コンセプトカーの発表で見ると、2008年にマツダ・風籟(ふうらい)を発表して以降は音沙汰がなかったので、新型車としては7年ぶりの展開となります。

RX-8、ひいてはロータリーエンジンが生産終了となった原因は、間違いなく燃費の悪さです。RX-8ではRX-7より燃費が向上したものの、レシプロエンジン(ロータリー以外のフツウのエンジン)も燃費を向上させてきているわけで、構造的にどうしても燃費が悪くなりやすいロータリーエンジンでは、厳しい燃費基準や排出ガス規制に合わせつつ採算の取れる車を販売し続けるのが難しかったわけです。

量産自動車用エンジンとしてのロータリーエンジンはマツダしか技術を持っていないわけで、マツダがやめてしまうことはイコール自動車業界からロータリーエンジンが消滅することに繋がりました。2012年をもってロータリーエンジンの灯は消えてしまったわけです。

新型ロータリーエンジン「16X」

マツダ・大気

マツダ・大気

マツダとてロータリーエンジンを見捨てたわけではありません。RX-8が発売されて4年が経過した2007年の東京モーターショーに、「大気」というコンセプトカーを出品。併せて「16X」という新型ロータリーエンジンも発表しました。

2003年の発売のRX-8に搭載されていたエンジン「13B-MSP」は、元をたどれば30年前の1973年にルーチェに搭載された「13B」という形式のエンジンに改良を重ねてきたエンジンで、基本設計(ローターとハウジングの形状やサイズ、ローターの幅)は30年前と同一です。654ccのロータリーエンジンを直列に2つ並べた2ローターロータリーエンジンが約40年間使われたというのは、完成度が高いエンジンだったと言えるでしょう。

もっと元をたどると、13Bに使われているハウジング&ローター形状は、1967年発売のコスモスポーツに搭載された最初のロータリーエンジン「10A」とも同一なんです。10Aと12Aと13Bはローター幅だけが異なるエンジンだったのです。(ちなみに歴代ロータリーで唯一形状の違う13Aエンジンは、ルーチェロータリークーペにわずか3年だけ採用されました)

歴史を紐解くと、1967年にロータリーエンジンの量産に成功してからほぼずっと同じエンジンを使ってきたんですね。

しかし、根本的な燃費改善のためにはこの「聖域」とも言えるローター&ハウジング形状にも手が入れられました。

この時発表された「16X」は1600cc、つまり800ccずつの2ローターロータリーエンジンです。13Bが654×2=1308ccだったので、22%の排気量アップとなります。ローター形状は13Bよりもやや偏心量の大きい形になり、レシプロエンジンで言うところのロングストローク化にあたる変更が施されました。

燃費向上を念頭に置いた変更だと思われますが、残念ながら今のところ市販に至っていないので実力値は不明なままです。

コンセプトカー「RX-VISION」

そんな状況の中発表されたのが今回のRX-VISIONです。

苦境を抜け出して奇跡の復活劇!と言いたいところですが、RX-VISIONには市販化に繋がりそうなポジティブな要素と、市販化に至らなさそうなネガティブな要素が共存しています。

ロータリーが復活しそうな要素

最大のポイントはマツダが現実的なコンセプトカーを発表したことです。

過去のロータリーコンセプトカーとの違い

RX-8発売以降に、ロータリーエンジンを想定するコンセプトカーは2台発表されました。

マツダ・大気

マツダ・大気

1台は先ほどの「大気」。2007年発表です。リアタイヤは謎の造形で覆われていますし、ドアやキャビン(人が乗るところ)の形状に現実性はありません。あくまでデザインスタディとして発表されたに過ぎず、これを元に市販車を作ろうなんて気はサラサラ無さそうでした。

同時発表されたエンジン「16X」がかなり具体的だっただけにこれではちょっと……という感じですね。

マツダ・風籟(ふうらい)

マツダ・風籟(ふうらい)

2台目は2008年のマツダ・風籟(ふうらい)です。この漢字どうやったら出るんでしょう?「籟」は「風がものに当たって発する音」だそうです。

見ての通りレーシングカーです。重要なポイントとしては実際に走行できたことなんですが、搭載されたロータリーエンジンは新開発の16Xではなく、ユーノスコスモに使われた20B(13Bの3ローター版)でした。エタノールで走行するという新たな試みでもありましたが、こちらも実際に市販することを想定しているはずがありませんね。

RX-VISION

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ところが今回は市販化を想定させるには十分に現実的な形状です。先代RX-7と現行ロードスターのデザインをいいとこ取りしたかのような超絶美しいデザインでありつつも、上の2車に比べればかなり市販化を予感させるデザインになっています。ロードカーらしいデザインに常識的な灯火類、2座に十分なキャビン、(大きすぎるものの)まともなホイール&タイヤ。

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内装もぶっ飛んだデザインなんかではなく、シンプル&クールにまとめられています。

マツダにとってのコンセプトカー

最近のマツダのコンセプトカーの特徴としては、かなり市販化を意識していて、ほぼそのままに近い形で量産されることが多いということが挙げられます。

マツダ・アテンザに繋がる2台のコンセプトカーを見てください。

マツダ・靱(しなり)

2010年 マツダ・靱(しなり)発表


マツダ・雄(たけり)

2011年 マツダ・雄(たけり)発表


マツダ・アテンザ

2012年 マツダ・アテンザ(3台目)発売

ディテールは異なるものの、フロントグリルやライト、フェンダーに入るプレスライン、フロントフォグの造形、ホイールなど、大部分がほぼそのまま量産に至っています。

マツダがリアリティのあるコンセプトカーを出すということは、市販化を視野に入れていると考えることもできそうです。

マツダを取り巻く状況

マツダはこのところ魂動デザインとスカイアクティブ、さらにはフォルクスワーゲンのディーゼル不正問題(マツダはディーゼル普及に力を入れている)もあって、絶好調です。

さらにはFRに軸足を移してBMWのようなプレミアムブランドになろうとしているという話もあります。

スポーツや走りを標榜するプレミアムブランドを名乗るには、イメージリーダーとしてマツダ・スピリットを代表するフラッグシップ・スポーツカーが必要だという判断になっても何らおかしくはありません。アテンザのような中型セダンも作るメーカーの代表車種が、250万円のライトウェイトオープン2シーター「ロードスター」ではちょっとカッコが付かないでしょうね(註:私はロードスター大好きですよ。元NBオーナーですし)。

マツダを代表するスポーツカー。みんながロータリーエンジンを想像することぐらい、マツダ自身が一番よく分かっているはずです。

プレミアムコンパクト「デミオ」、FRハッチバック「アクセラ」、FRセダン「アテンザ」、スポーツミニバン「プレマシー」、SUV「CX-3」「CX-5」「CX-9」、ライトウェイトオープンスポーツ「ロードスター」、そしてロータリーピュアスポーツ「RX-9」。実に美しいじゃありませんか!

市販化には至らなさそうな要素

ここからはネガティブな要素です。読みたくない人は飛ばしてもいいですよ。

コンセプトカーに技術的な裏付けがあるか微妙

そもそも大前提として、RX-VISIONはロータリーエンジンを想定しているのであって、搭載しているのではありません

「ロータリーエンジンを積むスポーツカーだったらこんなデザインがいいなぁ」というをカタチにしたのであって、実際に走るとか、どこに16Xが載っているとか、重量バランスがどうかとか、衝突安全はどうかとか、そういうことをちゃんと考えているかは分かりません

「分かりません」と書いたのは、さすがに自動車メーカーがこんな現実的なデザインを提示するのに、何の裏付けも無いとは思えないからです。ちゃんと考えればボンネットが低いことにも理由が付きますし、ある程度は技術的背景があるとも考えられるからです。

とはいえ、すでに8年も前に発表しているエンジン「16X」(今回の発表ではSKYACTIV-R)を展示すらしていないのは、エンジンの改良にまだ自信が無いのでは、と邪推してしまいます。

「夢」と「デザイン」しか語られていない

マツダブースで配布している冊子にはRX-VISIONにこう書いています。

マツダブランドの魂を宿す、いつかは実現したい夢。

すごくぼんやりしていますね。

マツダデザインが考える美しいFRスポーツのカタチを追求し、新しさの中にスポーツカーの正統を感じさせる、マツダのスポーツカーの歴史を凝縮したスタイリングをつくり上げています。

ひと目でスポーツカーとわかるパッケージに、圧倒的に低いボンネットと全高を可能にする次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載し、オンリーワンのFRプロポーションを生み出しました。(以下略)

低いボンネットについてはロータリーエンジンの特徴を述べていますが、それ以上の詳しい技術背景があるようには思えません。

市販化についての発言

当のマツダは、コンセプトカーの市販についてこう答えたそうです。

「ロータリー発売50周年の2017年を経て、東京オリンピックイヤーでありマツダ創立100周年の2020年だったら美しいですね」

そりゃみんなそう思ってますよ。

東京モーターショーは奇数年開催なので、2017年の東京モーターショーでロータリー50周年を3年後の復活を発表することで華々しく祝い、市販化プロトタイプ公開。2019年の東京モーターショーで市販化モデルと発売日、価格を発表。2020年半ば頃に発売。美しすぎます。

でもこの発言、なんだか他人ごとのようですよね。そうできたらと思いつつも、明確な実現可能性を持っていないように感じます。

RX-8ではどうだったか?

かつてのRX-8では、2003年の発売に対して最初のコンセプトカー「RX-01」が8年前の1995年でした。しかし翌96年にフォード出身の社長が「具体的なことは何も決まっていない」と企画は一旦消滅。その後新型エンジン「RENESIS」と共に観音開きで登場した「RX-EVELV」が4年前の1999年でした。

完全な新型モデルを投入するなら、2020年から見て5年前の今年はギリギリのラインです。

まとめ

こうして整理してみると、状況はかなり厳しそうというのが正直な感想です。

市販化のは可能性は30%と予想しました。

個人的にはロータリーエンジン大好きなので是非復活して欲しい(なんなら無理してでも買いたい)ところですが、環境要請や社内の状況、他の新型車開発などもある中で、世界でたった1台のために完全専用のエンジンを再び(現代の基準での)量産レベルに持っていくのは困難を極めることと思います。

でも、「飽くなき挑戦」でロータリーを市販化、ロータリーエンジンでル・マンを制覇、ロードスターでライトウェイトスポーツの復活、消えかかったロータリーの灯を観音開き4ドアで存続、などなど数々の伝説を残してきたマツダだけに、期待せずにはいられませんね!

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