ロータスエリーゼ試乗記!わずか900kgのNAエリーゼはライトウェイト最高峰か?
2016/11/27
ブリティッシュ・スポーツカーの名門、ロータスのスポーツカー「エリーゼ」を試乗してきました。
島国イギリスで長い歴史を持つライトウェイトスポーツカーの中でも、顕著にライトウェイトスポーツを体現してきたエリーゼ。現行ではスーパーチャージャー仕様も用意されてややパフォーマンススポーツカーになってきた感もありますが、ちゃんとライトウェイトスポーツしているのでしょうか?
今回は自然吸気エンジンを搭載するベースモデル「エリーゼ」をレビューします。
エリーゼ(ベースグレード)のスペック
エリーゼ | エリーゼS | |
---|---|---|
全長 | 3,800 mm | |
全幅 | 1,720 mm | |
全高 | 1,130 mm | |
車重 | 900 kg | 950 kg |
駆動方式 | MR | |
トランスミッション | 6MT | |
エンジン | 1.6L 自然吸気 | 1.8L スーパーチャージャー |
最高出力 | 136 PS / 6,800 rpm | 220 PS / 6,800 rpm |
最大トルク | 16.3 kgm / 4,400 rpm | 25.4 kgm / 4,600 rpm |
パワーウェイトレシオ | 6.6 kg/PS | 4.3 kg/PS |
価格 | 589 万円~ | 697 万円~ |
エリーゼのベースグレードは1.6L自然吸気エンジンを搭載しています。
1.6L NAでオープンスポーツといえば、マツダ・ロードスター(発売当初はユーノス)の初代NA型は1.6Lエンジンで発売されました。その後モアパワーの要求に応える形で1.8Lに変更され、2代目では1.6L・1.8Lが併売されました。「テンロク」「テンパチ」という80年代スポーツカー的なエンジンセレクションですね。ちなみに4代目となる新型ロードスターは1.5L自然吸気です。
1.8L+スーパーチャージャーの上級グレード「エリーゼS」に比べればトルクもパワーも落ちますが、50kg軽く100万円近い安い「エリーゼ」の方が(スペック的には)よりライトウェイトスポーツらしいと思います。ただ、それでも現行エリーゼは900kgもあります。初代マツダロードスターは最小構成で940kgからだったので、昨今の衝突安全規制がいかに厳しいかを示していると思います。
エンジンパワーは136馬力/16.3kgmとスペック的には平凡です。パワーウェイトレシオは6.6kg/PSです。
加速感
軽さのおかげもあって、出足は上々です。元気の良く荒々しい排気音と相まってスカッと走ってくれそうです。軽くアクセルを踏んで走る分にはエリーゼSに特に劣る感じはしません。 普通に乗りやすいです。
でもスポーツ走行に入ると話が変わります。アクセル全開にして一気に速度を上げようとしても想定の範囲内の加速感で、飛びっきり速いという感覚ではありません。公道でもアクセルペダルを奥まで踏み込んでエンジンパワーを限界まで引き出す走りが普通にできてしまいます。良く言えば普段からアクセルを踏めて楽しい。悪く言えばパワー不足。良くも悪くもマツダロードスターの1.6Lモデルの特徴と同じです。
スポーツカーで自然吸気ですから当然トルクの盛り上がり方はナチュラルで楽しい走りを演出してくれます。でも600万円の車でこれはいくらなんでも非力すぎます。ベースグレードがわずか690kg(しかもエンジンは1.8L)だったフェイズ1ならいざ知らず、900kgも車重があっては1.6L NAでは足りませんね。
タイヤはフロント175/55R16、リア225/45R17なのでエリーゼSと同じです。MRですしトラクション的には余裕が大きいです。
コーナリング
コーナリングはエリーゼSの特性に準じます。フロントの荷重がほとんど同じなのか鼻先の曲がりっぷりはエリーゼSと同様に抜群です。コーナリングでは車重50kgの差はほとんど感じませんでした。
ボディ特性や足回りはエリーゼSのパワーでも十分受け止められるようにできているので、素のエリーゼではコーナー出口前から結構ガッツリアクセルを開いてもすんなり曲がれてしまいます。コーナーからの立ち上がりにエリーゼSほどのパンチが無いので加速感はそこそこです。
シート,ペダル
シートはフルバケットなのでしっかりホールドしてくれます。コーナリング中も路面状況がシートから伝わってきて走りやすいです。
ペダル配置はとても良く、何も考えなくても自然に踏めます。試乗レベルでごくごく簡単にヒールアンドトウができる車って意外と少ないと思います。
自分の手足のように意のままに操れること。ライトウェイトスポーツが最も大切にしていることはここでしょう。エリーゼはまさしくそれを体現しています。ポルシェ・ボクスターなんかは「速い車に乗せられている」感じがしましたが、エリーゼはちゃんと「自分で走らせている」感覚が強くなるようにできています。
コーナリング特性なんかはかなり異なりますが、マツダロードスターが掲げる『人馬一体』とも繋がるところがあるのでしょうね。
ホンダ・S660との繋がり
(軽自動車なので)不本意ながら、エンジンとボディのパワーバランスやコーナリング特性はホンダ・S660とそっくりでした。いやもちろん先にエリーゼがあるので、S660の設計目標にエリーゼがあったのでしょう。リアミッドシップに小排気量エンジンを搭載、後輪駆動、2シーター、巻き取り式タルガトップ、前後異径ホイール、共通点はたくさんあります。
コーナー出口でアクセル全開にしても、オーバーステア気味になりつつも軽快に加速していく様は本当にそっくりです。
ロータス・エリーゼ エリーゼ |
ホンダ・S660 α/β共通 |
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---|---|---|
車重 | 900 kg | 830 kg |
排気量 | 1600cc 自然吸気 | 660cc 自然吸気 |
最高出力 | 136 PS / 6,800 rpm | 64 PS / 6,000 rpm |
最大トルク | 16.3 kgm / 4,400 rpm | 10.6 kgm / 2,600 rpm |
パワーウェイトレシオ | 6.6 kg/PS | 13.0 kg/PS |
トルクウェイトレシオ | 55.2 kg / kgm | 78.3 kg / kgm |
価格 | 589 万円~ | 198 万円~ |
数値で見ると結構差がありますね。S660の最高出力は軽自動車の自主規制値64馬力に縛られているからか結構な差があります。トルクウェイトレシオを見てみたものの、それでも結構な差がありました。でも、S660とエリーゼに乗ってみるとは明らかに同じ方向を向いたスポーツカーだなぁと感じました。
まとめ
素のエリーゼ醍醐味は性能を引き出して楽しむことにあります。限界は非常に高くコーナリング特性も良好なのでガンガン踏んで走ることができます。
一方でより速く走りたい、アドレナリンが噴出するようなパンチ力のある加速が欲しい、エリーゼの限界に挑戦したい、となってくると1.6 NAは正直非力です。ライトウェイトボディにミニマムパワーがライトウェイトスポーツの本分なのでしょうが、900kg以上に到達してしまった車体にはせめて200PS/20kgm以上は無いと厳しいです。600万円以上の大枚をはたいて買うのであれば、楽しくも速いスポーツカーであって欲しいもの。素のエリーゼの立ち位置は正直微妙です。「ライトウェイトスポーツ最高峰」はスーパーセブンなんかに行くしかないのかもしれません。
エリーゼは同じミッドシップでも安楽にも走れてしまうポルシェ・ボクスターの走りとはまったく違います。2.7L NAの「ボクスター」が634万円、3.4L NAの「ボクスターS」が790万円と近い価格帯、2シーターミッドシップオープンと共通点はありますが、目指す先がまったくもって異なります。
単に乗りやすく走りやすいスポーツカーが欲しいなら[普通に]ボクスターなんかを買ってしまえばいいと思います。エリーゼは「自分の力で走らせる」「スポーツカーの性能を限界まで引き出す」といった走りをしたいストイックな人にこそ乗って欲しい車ですね。