ルーミー/タンク試乗レビュー!質はタントそのまま。太った軽の走り&使い勝手は?
2017/03/03
トヨタの新型車・ルーミー/タンク(ダイハツ・トールと同一車)を試乗してきました。
スズキ・ソリオを丸パクリした意欲作ですが、あらゆる面で広さだけ2割増しのダイハツ・タントでした。詳細にレビューします。
スズキ・ソリオの試乗レビューはこちら↓
目次
トヨタ・ルーミー/タンクってどんな車?
11月に発売された新型モデル「ルーミー」「タンク」は、トヨタの小型トールワゴンです。
開発・生産はダイハツで、ダイハツからも「ダイハツ・トール」として発売されますが、販売上のメインはトヨタです。CMも積極的に打っていますしね。さらにスバルからは「ジャスティ」としても販売されています。
4つの名前で選べる顔・グレードが微妙に異なりますので、詳しくはこちらの記事をご覧ください↓
基本的にはスズキ・ソリオを丸パクリした車で、ソリオと同じく車体サイズと排気量だけ大きくした軽自動車です。ルーミー/タンクの方が後発なのに、非ターボモデルではソリオに負けているという残念さ。
車体サイズと排気量こそ普通車(登録車)になっていますが、内外装の造りや装備、走りなどは軽自動車を基準に考えないといけません。
試乗したモデル
試乗したのはタンクです。顔がエスティマっぽい方のモデルで、トヨペット店とネッツ店で扱われています。グレードは「G S」、中位グレードに「スマートアシスト2」を付けたグレードです。
ターボ買う人なんているの?
このグレードだとエンジンは1.0L自然吸気。ルーミー/タンクには一応ターボモデルも用意されていますが、価格的に売れるのは圧倒的に自然吸気の方でしょう。軽自動車だとターボの差額が7,8万円のものもあるので買う人がいるのも分かりますが、ルーミー/タンクは差額が10万円を超えます。
軽自動車を太らせて、なおかつターボまで装備するなんてゴテゴテの装飾みたいじゃないですか。ターボだと180万円~。わざわざこんなのにするくらいなら、最初っから排気量の大きいポルテ/スペイドにでもすればいいんですよ。ポルテ/スペイドなら1.5L自然吸気エンジンで電動スライドドア、出力はルーミー/タンクのターボ車(98馬力)より大きい109馬力です。
さらに言えばルーミー/タンクのターボはダウンサイジングターボの設計ではない(最大トルク回転数が高め)ので、ターボの方が燃費が落ちます。実用燃費では1.0Lターボより1.5L自然吸気の方が良くなるのは確実でしょう。
内外装デザイン
実車を見てデザインをチェックしました。
エクステリアデザイン
写真からイメージした通り、箱です。直方体。多くの軽自動車は幅の制約からどの面も切り立った板のようになっていますが、ルーミー/タンクも同様に横も後ろも板です。まっ直角。箱なのでデザインも何もありません。
実物を見て特に残念な感じだったのがこれ。
ルーミーのフロントグリルが黒になっているものです。なんだか「アルファード風のデザインにしようとしたけど、途中で資金が尽きました」みたいな貧乏くささがあって受け入れがたい感じでした。
てっきりこっちのメッキグリルの方が標準だと思っていたのですが、メッキグリルになるのは上位グレードの「カスタム」だけなので、価格は177万円~。「G」「X」はダサい方のグリルです。
ルーミーの公式サイトの外観の紹介でほぼメッキグリルの仕様しか紹介されていないのは、トヨタ自身が黒をダサいと認めているようなもんじゃないですか。トヨタ車だとグレード構成とかよく理解せずに買う人も結構いると思うので、自分の車を見て「コレジャナイ」ってなりそうな気もします。
私としてはそもそもルーミーのデザインはカッコ悪いと思っているので、安っぽい黒だろうがコテコテメッキだろうがどっちにしろ好きじゃありません。
ルーミーと比べるとタンクの方は「最近のトヨタ車」な感じで悪くないデザインでした。こちらもカスタムかどうかで顔が変わりますが、標準でもルーミーほどダサくはありません。デザインの中心が抜け落ちているノーマルルーミーに比べて、ノーマルタンクは最低限のデザイン要素はちゃんと残っています。
昔だったらタンクのデザインはトヨタにしては挑戦的に映ったんでしょうが、こういうデザインの車(特にアクア)が街中に増えたせいで慣れてしまいましたね。外装デザインだけで言えば、ルーミーよりタンクの方が売れそうな感じがしました。
他のデザイン要素については、酷いところも素晴らしいところもなく普通でした。無難な軽自動車な感じです。ダイハツディーラーだと隣にムーブキャンバスとかキャストとかが並んでいて、どこからが本物の軽自動車か分からなくなります。外から見ると意外とサイズ感変わらないんですね。
でもフロントグリルに関して言えば、ソリオを見ると「あぁスズキの軽のデザインだなぁ」と思いますが、タンクを見ても「ダイハツの軽だなぁ」とは思いません。サイズは小さいモノのちゃんとトヨタっぽさを出せていると思います。ダイハツ車なんですけどね。
インテリアデザイン
乗り込んで最初に思うのは「広いな!」ということです。なぜかって? 軽自動車に乗り込んでいると錯覚するからです。
実家にダイハツ・タントがあるので、以前は頻繁に乗っていました。ルーミー/タンクはまさしくタントそのもの。でもタントより車体が大きいので広く感じるわけです。広さ以外はすべてタントと同じレベル。細かく見てみましょう。
座った瞬間に「あぁ軽自動車に乗っているなぁ」と感じさせてきます。真っ平らのシート(詳しくは後述します)、無愛想で安っちいプラスチックそうろうのインテリアパネル、目的不明の収納たち。イイモノ感は皆無です。
ドアの内張りも当然プラスチックオンリーですし、表面の加工にも高級感を出す気なんてありません。
総じてタント×1.2です。サイズがタントより20%増し。間違っちゃいけないのは質感は増してないことです。増えたのはサイズだけ。
ただ唯一ステアリングのデザインだけはトヨタ車よりはマシです。トヨタ車、特に先代プリウス/現行アクアのステアリングが超絶ダサいのに比べて、ダイハツ車のステアリングは意外と良いデザインです。まぁこのデザイン自体アウディとそっくりなので多分パクったのでしょうが、マツダ車なんかも同じようなデザインだったりと、最近は中央が円形になっているのは珍しくありません。むしろこの時代にこんなダサいステアリングを使い続けるトヨタの方がおかしいです。
新型プリウスですらこのダサさです。使い勝手
売りはもちろん軽自動車のような広さ、高さ、それに電動スライドドアです。
電動スライドドアの動きはちゃんとしていて問題ありません。でもそんなに電動スライドドアを有り難がるなら、いっそポルテみたいに開口部を広くしてしまえよとも思ってしまいますね。剛性は絶望的ですが、こんな車を選ぶ時点で運動性能に贅沢は言えません。それに広さを有り難がる人なら席が多いだけのシエンタ/フリードでも喜びそうです。トヨタのディーラーマンもルーミー/タンク、ポルテ/スペイド、シエンタの棲み分けが難しいと言っていました。
後部座席の前後可動範囲が結構広いです。こういう辺りもタントと同じ。前に出せば4人乗ったまま荷物たくさん積めますが、トランク部分にシートレールが露出するので注意しましょう。荷物にキズがつきます。
テールゲートは大型ミニバンのように手前に大きく開きます。テールゲートを開けているときだけはミニバンっぽい雰囲気です。
解放角度は約90度なので上方は大丈夫そうですが、こんなにも手前に大きく開くと後方に壁があるような駐車場ではぶつかりそうです。購入前は大きく開く方が便利そうに見えて実際に使うときに不便な機能の一つですね。だからといってセレナとかステップワゴンみたいに変なリアドアにして欲しくもありませんが。これ以上重くしたらまともに走れません。普通に身分相応に小さめのテールゲートにするか、片開きドアタイプにした方が良かったと思います。
走り
ドライビングポジション
まず一番に気になるのがドライビングポジションです。ドライビングポジションが犠牲になっているのはシエンタと同じです。
最悪なのがステアリングの向きと位置。中途半端に高めの位置にある上に、やたら上を向いて(立って)います。チルトステアリング機能で多少上下には移動できますが、向きはほぼそのまま。しかも調整範囲が狭いので、結局あまり解決にはなりません。テレスコピック(手前に伸ばす調整機構)も無いので遠くに上を向いたまま。場所が悪すぎるせいで、ステアリングを握ると言うより掴む感じになってしまいます。
シート
シートはベンチのような板状の座面で、体を包む気などまるでありません。普通に直進しているときですら走行中の揺れを受け止めてくれません。カーブに入ったり多少路面が悪かったりすると、体がバタバタと揺れ動いてしまいます。乗用車のシートは「座る」だけでなく「体を支える」という仕事も担っています。こんなシートでは体を置いているだけで、安定した運転ができそうにありません。
シートとステアリングの位置が悪いせいで、背筋をピンと伸ばした姿勢での運転を強いられます。変に力が入った姿勢になるので、ハンドル操作もペダル操作も素早く正確になんてできません。こんな姿勢から緊急ブレーキとかできるのでしょうか? 運転姿勢からして軽自動車そのものです。
音も3気筒で軽自動車感満載。あーいやになりますね。これで200万円ですよ。誰が買うんだよ一体。こんなの買うなら普通のヴィッツ/アクアかタントのがいいでしょうに。軽もやたら高いんですけどね。いったいどこにお金を払っているのか不明です。
パワー
スペック的に予想できていたことではありますが、走りません。車体サイズと車重に対してパワーが無さ過ぎます。だいたい660cc自然吸気の軽自動車と同じ感覚です。ダイハツ・タントの非ターボがほぼ同じ感覚でしょう。
直進加速でアクセルペダルを床まで踏んでも、騒音と振動が増えるばかりで車速はなかなか増えません。これでは高速道路の合流はおろか、混雑する広域バイパスの加速ですら辛いです。
車体に対してパワーが不足しているので、普段の走行時にどうしてもアクセルを深く踏んでしまいます。なので、燃費はカタログに書かれている以上に悪化します。660ccの軽が1300ccのコンパクトカーより実用燃費が悪くなりやすいのはこれが原因です。排気量が小さければ燃費が良くなるわけではありません。もちろん車体価格と自動車税は若干安くなりますけど、200万円の買い物でこんなイライラするものを選びたいんですかね。
同じ1.0Lでも、ヴィッツ1.0の方がちょっとマシでした。トヨタ車とダイハツ車で設計がまったく別なので、ヴィッツの方が実用性能が良いのでしょうかね。ヴィッツも1.0Lは3気筒なので騒音や振動が酷いのは共通していますが。4気筒が良ければヴィッツ1.3L以上にしないといけません。
乗り心地
まずエンジンが3気筒なので、振動も騒音も結構大きいです。ただ現在の軽自動車は全メーカー3気筒エンジンしか無いので、軽自動車基準で言ったら普通です。普通の軽自動車並みにうるさく揺れます。
ルーミー/タンクは146万円~201万円のどのグレードでも3気筒。でもヴィッツだったら(1.0Lだと3気筒ですが)145万円で4気筒1.3Lエンジンになります。200万円も出して3気筒エンジンとか悲しくなりますよ。ドイツには300万円超えても3気筒なんて車もあるので上には上がという感じもしますが。
これを例えばマツダ・デミオなんかと比べてしまうと、歴然とした差があります。コンパクトカーになると何が違うのか知りたければ、アクアやヴィッツなんかと比べずにデミオに乗ってみましょう。静粛性とか振動とか、車造りの根本的な違いを教えられます。デミオなら最低グレードの135万円からすべて4気筒。
足回りはフワフワです。踏ん張る気なんてなくふらふらと走ります。路面の凹凸を(タイヤ&サスペンションではなく)車体全体で受け止めてしまうので、ぐわんぐわん揺れながら走ります。この辺りも軽自動車基準ならまぁ普通レベル。コンパクトカー基準なら落第です。
長距離走行時の疲れは、騒音・振動・安定感がかなり大きく効いてきます。いくら車体が大きかったりパワーがあったりしても、エンジンがうるさかったり直進安定性が低くてふらふら蛇行したりするとかなり疲れます。この車は、性格だけでなく造りの面でも長距離走行を捨てていますね。
タントとのスペック比較
タンクの直接のライバルはもちろんスズキ・ソリオなんですが、中身は完全にタントなのでタントとも比較してみましょう。似たところでどちらも中位グレードを選びました。
車種名 | トヨタ タンク |
ダイハツ タント |
||
---|---|---|---|---|
グレード | G S | G-T | X SAⅢ | Xターボ SAⅢ |
駆動方式 | FF | |||
全長 | 3,700 mm | 3,395 mm | ||
全幅 | 1,670 mm | 1,475 mm | ||
全高 | 1,735 mm | 1,750 mm | ||
ホイールベース | 2,490 mm | 2,455 mm | ||
車両重量 | 1,070 kg | 1,100 kg | 930 kg | 940 kg |
トランスミッション | CVT | |||
エンジン形式 | 直列3気筒 | |||
排気量 | 1.0L ガソリン | 1.0L ガソリン +ターボ |
660cc ガソリン | 660cc ガソリン +ターボ |
最高出力(馬力) | 69 ps | 98 ps | 52 ps | 64 ps |
最大トルク | 9.4 kgm | 14.3 kgm | 6.1 kgm | 9.4 kgm |
JC08モード燃費 | 24.6 km/L 4.1 L/100km |
21.8 km/L 4.6 L/100km |
28.0 km/L 3.6 L/100km |
26.0 km/L 3.8 L/100km |
10万キロ燃料費 (ガソリン120円) |
49 万円 | 55 万円 | 43 万円 | 46 万円 |
両側電動 スライドドア |
標準装備 | 標準装備 | オプション (4.9 万円) |
オプション (4.9 万円) |
価格 | 168 万円~ | 180 万円~ | 142 万円~ | 150 万円~ |
全高がほぼ同一で、長さと幅を拡大した形なんですね。排気量が大きい分パワーが上がっていますが、車重が150kg程重いので走りが似たような感覚になっているわけです。
タンクも大概高いですが、タントも高いですね。アレで150万円ですか。軽自動車は全般的に「安物買いの銭失い」になる可能性が高いと思っていますが、そもそも安くないという根本的なズッコケものです。軽自動車にする価値があるのは、色んなものを諦めて最小限動けばいい人向けの車(70万円~のアルトなど)くらいですよ。高いのに軽なんて、マクドナルドで1,000円のハンバーガーを食べるみたいのものです。タンクも中身は軽自動車なので、その延長線上にいます。
まとめ
額面通り、「大きな軽自動車」以上でも以下でもありませんでした。質感・走り・騒音・振動などは全部軽自動車のまま、単にサイズだけが大きくなりました。あと価格も高くなってますよね。高くてもいいから「イイ車」が欲しいと言うなら、そもそも1クラス上の車にするべきです。
1.0Lだから660ccの軽よりよく走るとか勘違いしないでくださいね。軽自動車で得られるものしか得られません。唯一あるとすればトヨタのエンブレムくらい。でもトヨタのマークが付いてて嬉しいんですかね? もちろんダイハツよりはマシですが。
質も性能も価格もすごく中途半端になってしまっていることが再確認できました。
ライバル(というかパクリ元)のスズキ・ソリオの試乗レビューはこちら↓