マツダが世紀の大発明!HCCIの新エンジン「SKYACTIV-X」を2018年度に新型アクセラから投入
2017/08/08
マツダが「HCCI燃焼」を活用した新エンジンを2018年度中に投入することを日本経済新聞が報じました。
何がどうスゴくて何が変わるのでしょうか? 解説します。
※追記 続報はこちら↓
目次
日本経済新聞の記事
マツダは燃費を従来比約3割高めた新型エンジンを2018年度末に導入する。点火ではなく圧縮によってガソリンを燃やす技術を世界で初めて実用化し、主力車に搭載する。(日本経済新聞から抜粋。強調は筆者による。)
ついに明確な時期を付けての記事が出てきました。初投入は2018年にフルモデルチェンジが予想される4代目アクセラからだそうです。
キーワードは「点火ではなく圧縮による燃焼」。これは「HCCI燃焼」と呼ばれる技術です。
HCCI 燃焼とは
HCCI(=Homogeneous Charge Compression Ignition)とは、「予混合圧縮自動着火」という技術のことです。「空気と燃料を予め混合し、圧縮によって自動着火させる」技術です。通常のガソリンエンジンでは圧縮した混合気を点火プラグによって発火させて燃焼していますが、HCCIでは圧縮による自己発火のみで燃焼させます。
燃料に軽油を使ったディーゼルエンジンでも自己発火によって燃焼させていますが、ディーゼルエンジンでは燃焼させたい瞬間に燃料を噴射するので技術的難易度はまったく異なります。
ディーゼルエンジン | プラグ式 ガソリンエンジン |
HCCI ガソリンエンジン |
---|---|---|
圧縮した空気に燃料を噴射すると 燃料が自己発火 |
圧縮した混合気(空気+燃料)に 点火プラグで着火 |
圧縮した混合気(空気+燃料)が 自己発火 |
燃料噴射ポイントから 徐々に燃焼が広がる |
点火プラグから 徐々に燃焼が広がる |
混合気のあらゆる場所から 燃焼が起きる |
HCCIだけ、燃焼を始める場所が1箇所ではありませんね。これが特徴です。
HCCIのメリット
うまく制御されたHCCIでは燃焼室全体で着火が起きるので、燃焼室の形状に寄らず理想的な燃焼を形成することができます。そのため、燃料をごく薄くした超リーンバーン(希薄燃焼)が可能になり、燃費性能が高まります。さらに、NOxやススがほとんど出ないため、排気ガスがクリーンになるというメリットもあります。
究極のリーンバーンであり、ガソリンの燃焼を使ったエンジンとしては、ある意味究極のエンジンと言えます。燃費性能を飛躍的に向上(後述)させられます。これがHCCIを世紀の大発明と呼ぶ理由です。
HCCIの難しさ
大きなメリットがあるにも関わらず今まで実用化できなかったのは、HCCIエンジンの開発が非常に難しいからです。HCCIの開発に挑戦しているのは何もマツダだけではありません。でも他のメーカーからの市販化は現状噂にすら聞きません。
ガソリンでHCCI燃焼を使うためには、一定の条件を満たす必要があります。空気と燃料の比率、混ざり方、圧力、温度です。これらの条件がちょうど良く揃わないとHCCI燃焼にはなりません。
不完全燃焼 ← HCCI → ノッキング
ガスの温度が高すぎたり圧力が高すぎると、自己発火が起きるべきタイミングより早く発火してしまいます。圧縮過程中の発火、つまりノッキングが起きるわけですね。カラカラと不快な音がするだけではなく出力低下や燃費悪化に繋がりますし、最悪の場合エンジン部品を破損する可能性があります。
一方温度が低すぎたり圧力が低すぎると、自己発火がうまく起きずに不完全燃焼してしまいます。もちろん出力や燃費が悪化しますし、排気にはHC(炭化水素)が多量に含まれることになります。HCは公害の原因になるので触媒で除去(水と二酸化炭素に酸化)する必要があります。
ガソリンの質や空気の違い
実験室で決められた条件の下でHCCI燃焼を制御することができたとしても、実用市販車では簡単には使えません。温度条件は当然変わりますし、そもそも発火するガソリン自体が同じではありません。
一般にはガソリンには「レギュラー」「ハイオク」の2種類があるだけですが、ガソリンは均一な物質ではありません。一定の性能範囲に収まっている石油製品がガソリンなのであって、酸素(=O2)のように一定ではありません。日本国内だけならまだしも、国外、特に発展途上国には低質なガソリンが供給されている国も多く、様々な質の燃料に合わせて制御を変更しなければいけません。
さらに、空気だって一定ではありません。自然吸気エンジンでは大気圧によって空気を燃焼室に取り込みます。大気圧だって世界中一定ではありませんし、天気によっても変化します。さらに同じ大気圧でも温度によって取り込まれる量は変化します。
HCCI燃焼とプラグ燃焼の切り替え
上に挙げたような条件を満たしながら常にHCCIによる燃焼を維持するのは非常に難しいです。これは目下実用化を目指すマツダだって同じです。常にHCCIにできないのであれば、うまくいく範囲だけHCCIを活用して、難しい部分はプラグ燃焼を用いることが考えられます。
でもこの切り替えも簡単ではありません。HCCI燃焼が可能な領域を正しく判定しなければいけないからです。HCCI燃焼ができない領域なのにプラグ点火をやめてしまえば、燃料は燃焼することなくそのまま排出されてしまいます。
HCCI燃焼が可能になるのは、低~中回転域だと見込まれています。なので高回転になる度にHCCI燃焼とプラグ燃焼の切り替えが発生します。ガソリンも温度も大気圧も回転数も刻々と変化する中で、HCCIの条件を正確に見極め、燃料と空気を的確な比率で混合し、ちょうど良いタイミングでHCCI燃焼とプラグ燃焼を切り替える。考えただけでもいかに難しいかが分かりますね。
マツダが開発するHCCIエンジン
今回日本経済新聞に取り上げられた話では、2018年度中にHCCIエンジンを投入するとのことです。何も今ふっと出た話ではなく、マツダは前々からスカイアクティブの第二世代ではHCCIエンジンを投入したいと発言しています。
今回の話で新しいことは、有力紙に明確な時期が登場したことと、アクセラのフルモデルチェンジが初投入だと書かれたことです。この記事についてマツダから公式な発表があったわけではありませんし、日経にも出典が明記されているわけではないので確定したことではありません。しかし、マツダが第2世代スカイアクティブの目玉として投入したいと言っていることを考慮すると十分に説得力のある無いようだと思います。
燃費向上は約3割
日経の記事によれば、燃費向上は約3割だそうです。車重や排気量などの条件は様々なので一概に3割と言えるものではありませんが、HCCIエンジンでの燃費のイメージはこんな感じです。
現行モデル | HCCIエンジン (いずれも想定数値) |
|
---|---|---|
デミオ 1.3Lガソリン |
24.6 km/L (4.1 L/100km) |
32.0 km/L (3.1 L/100km) |
アクセラ 1.5Lガソリン |
20.4 km/L (4.9 L/100km) |
26.5 km/L (3.8 L/100km) |
CX-5 2.0Lガソリン |
16.0 km/L (6.3 L/100km) |
20.8 km/L (4.8 L/100km) |
※ いずれもFF・AT車。
参考までにハイブリッドコンパクト3車種の燃費は、トヨタ・アクアが 37.0 km/L (2.7 L/100km)、フィットハイブリッドが 33.6 km/L (3.0 L/100km)、ノートe-POWERが 34.0 km/L (2.9 L/100km)です(いずれも燃費特化グレードを除く)。HCCIは非ハイブリッドでこの数字ですからかなりスゴいことなんですよコレ。当然HCCIにはハイブリッド車のデメリットがありません。
第2世代スカイアクティブはどこから?
スカイアクティブ全面採用車は現在8車種です。スカイアクティブを最初に全面採用したのは2012年の初代CX-5。先日新型CX-5が発表されたことから分かるように、スカイアクティブ技術の投入は1巡し、2周目に突入しています。
ただし、スカイアクティブの「第2世代」がどこからなのかは明確になっていません。現行アクセラなどに投入されている「G-ベクタリングコントロール」は第2世代技術の一つだと言われていますが、まだ第2世代に切り替わったとは言っていません。
技術面での第二世代への本格移行は2018年からとの話もありますので、2018年度に予定しているHCCI技術の投入をもって、「ここから第2世代です」と強力にアピールしていきたいのですかね。
第二世代に移行するとなれば、併せて採用されている魂動デザインも第二世代へ移行するのでしょうね。
ロータリーエンジンへの活用
「マツダの新開発エンジン」と聞くと、どうしてもロータリーエンジンのことが気になってしまいますね。今のところHCCI燃焼はレシプロエンジンを対象に開発されていますが、ロータリーエンジンに無関係の技術ではありません。
ロータリーエンジンはレシプロエンジン以上に燃焼の広げ方(混合気全体を効率的に発火させる)が難しいエンジンです。これは構造上仕方ありません。燃焼室が細長く広がり、その端に点火プラグがあるので燃焼の広がりが良くありません。点火プラグが2本あるのも、できるだけ効率的に着火するために時間差で2つのプラグを点火するためです。
点火・燃焼の効率の悪さは、ロータリーエンジンの燃費が悪いことの一因になっています。もしHCCI燃焼がロータリーエンジンでも実現すれば、燃費は大きく向上するはずです。
ただ現実にはそう簡単にはいかないでしょう。多大なコストを投入してまでも実現するメリットがあるのか微妙ですし、みんなが期待するスポーツカー+ロータリーエンジンにHCCIが合うのか(高回転では結局プラグ点火になる)も疑問です。
どちらかというとロータリーエンジンを動力源では無く発電用として使う活用法、シリーズハイブリッドやレンジエクステンダーEVへの活用の方が期待できそうだと思います。日産がシリーズハイブリッド車を投入したことで注目されていますしね。
まとめ
日経に取り上げられるあたり、いよいよ現実的になってきたんだなという感じがしますね。続報に期待しましょう。
マツダのスカイアクティブについての解説はこちら↓