VW新型パサートレビュー!ゴルフやアテンザに勝てる気がしない旗艦セダン
2017/02/14
フォルクスワーゲンのフラッグシップセダン「パサート」の新型モデル(8代目)が日本で発売したので、早速試乗してきました。乗ったのはセダンのコンフォートラインというグレードです。
欧州カーオブザイヤー2015を獲得した新型パサート、日本では売れるのでしょうか?
VWはパサートに続いてゴルフ オールトラックも発売しましたね。
目次
パサートってどんな車?
フォルクスワーゲン・パサートは、唯一日本に導入されているセダン型のモデルです。
サイズは欧州表記でDセグメントにあたり、ゴルフより1クラス上です。日本ではマツダ・アテンザ、トヨタ・マークX、日産・スカイライン、スバル・レガシィなどと同一クラスで、輸入車ではBMW・3シリーズやメルセデスベンツ・Cクラスが同じDセグメントです。
パサートにはステーションワゴンの「パサートヴァリアント」というのもあります。フォルクスワーゲンジャパンの社長いわく、日本で売れているパサートの8割がヴァリアントだそうです。セダンをもっと売りたいみたいですが、実用主義の日本で実用主義のフォルクスワーゲンですしね…。
先代からどう変わったか
基本スペックを先代と比較してみましょう。
新型パサート(8代目) | 先代パサート(7代目) | |
---|---|---|
全長 | 4,785 mm | 4,785 mm |
全幅 | 1,830 mm | 1,820 mm |
全高 | 1,465 mm | 1,490 mm |
車重 | 1,460 kg | 1,430 kg |
エンジン | 1.4L 直4 | 1.4L 直4 |
過給器 | ターボ | ターボ |
最高出力 | 150 PS / 5,000-6,000 rpm | 122 PS / 5,000 rpm |
最大トルク | 25.5 kgm / 1,500-3,500 rpm | 20.4 kgm / 1,500-4,000 rpm |
価格 | 359 万円~ (コンフォートライン) |
349 万円~ (コンフォートライン) |
エンジンが新しくなってパワーとトルクは向上したものの、ほとんど変わっていませんね。サイズも少し低くなった程度で同等です。
価格はDセグメントとしての装備が揃うグレード「コンフォートライン」で10万円の値上げとなりました。
ちなみにゴルフは同じ1.4Lターボを積んだ「TSIハイライン」が323万円~、排気量がさらに小さく1.2ターボとなる「TSIコンフォートライン」が286万円~です。
エクステリア
エクステリアデザインは先代とほぼ同じ、キープコンセプトですね。フォルクスワーゲンというかドイツのメーカーはいずれもメーカー固有の顔を持っているので、パサートもその例に漏れず「フォルクスワーゲン顔」のままということですね。
先立ってモデルチェンジしたゴルフ(7代目)は、先代(6代目)とほとんど見分けがつかないエクステリアでした。
変更点は7代目ゴルフと同じくヘッドライトがやや細長くなって精悍になったことくらいです。モデルチェンジの度にどんどん顔が変わっていく日本車とは大きな違いですね。
デザインに美しさや目新しさはなく、ディーラーで横に並んでいる現行ゴルフ(7代目)をそのまま縦横に引き延ばしただけに見えてしまいます。一言で言えば「地味」ですね。正直存在感はあまりありません。
インテリア
インテリアもエクステリア同様に、よく言えば奇をてらわない落ち着いたデザイン、悪く言えば「地味」。
1クラス下のゴルフと共通する部品が多すぎて、どこで差別化されているのかよく分かりませんでした。Cセグメントのゴルフは「このセグメントでこの内装品質は素晴らしい」ともなるのでしょうが、Dセグメントのパサートではもう一歩が欲しいところ。
エアコンルーバーから広がるラインはフロントフェイスのグリルを連想させて良いデザインだとは思うんですがねぇ。
かなり目立つ位置に鎮座するナビ兼インフォメーションディスプレイのスイッチが安っぽいことも良くないと思います。中身一緒でも良いから表面はゴルフと分けた方がいいんじゃないかと。
センターのアナログ時計は雰囲気作りに貢献していて良かったと思います。シフトレバー後ろの小物入れのフタはなんとかなんないんですかねぇ? 商店街のシャッターみたいで悲しい気持ちになります。フォルクスワーゲン的には実用的でいいんでしょうが、美しさが無さすぎです。
シート,ペダル
シートは可もなく不可もなく。特別感はありませんでした。
ペダル配置には不満が。まず、ブレーキペダルがアクセルペダルに対して手前過ぎるので、他の車に慣れた状態でブレーキを踏もうとすると最悪ペダルを踏み損なってアクセルに足が戻ることになります。これは非常に危険です。アクセルペダルでシートポジションを合わせているとブレーキペダルを踏むときに膝を大きく曲げることになるので、疲れやすいという点も問題です。
もう一つ。アクセルペダルの右にプラスチックが箱状に盛り上がっていて(画像の赤丸部分)、アクセルペダルを踏み込むと靴の右端がここに当たることがあります。上手く奥まで踏み込めませんし、かなり気になりました。
かつてオルガンペダルだったフォルクスワーゲンはどこへ行ってしまったんだろう……?
後部座席
後部座席はさすがにゴルフより余裕があります。頭上も高めなのでセダンにしては広々と感じます。
パサートヴァリアント(ステーションワゴン)では後方に向かって頭上が広がりすぎているので、さながらミニバンのような車内感覚でした。やはり車体形状としてはセダンの方が美しいですね。
トランク
トランクスペースはDセグメントとしても特に広々としていました。
ヴァリアントで、後方から簡単に後部座席を倒せて、荷室上のロールカーテンを前座席の直後に移設できるあたり、さすがドイツの実用車といった感じですね。やりすぎなくらいマジメに作り込まれています。
リアハッチを電動で動かせて、しかもスマートキーを持っていれば手を使わなくても車体下に足をかざせば自動で開いてくれるとこなんかもさすがドイツ車。
走り
走りの感覚は、同じエンジンを積むゴルフをさらにおとなしくした感じでした。走り出しはマイルド、加速感もマイルド、アクセル踏み込んでもやっぱりマイルド。ぼんやりとしか加速してくれません。マイルドなのは味付けでもあるのでしょうが、Dセグメントですし1400kg以上あるので、せめて1.6Lターボ以上は欲しいところ。
フォルクスワーゲングループジャパンの庄司社長はもっとパサートを売り込みたいと言っているみたいですが、それならせめて本国仕様にある1.8L 180馬力のグレードも作って欲しいですね。
DSGの動きはゴルフと同じ。アップシフトは悪くないんですが、発進やダウンシフトはアルファロメオをデュアルクラッチ「TCT」には劣るように感じました。ノーマルモードでの変速タイミングは昨今のどんどんシフトアップするエコすぎる車(ミニクーパーなど)に比べればまともでした。ま、単に1.4ではトルクが足りないからとも思えますけどね。
足周りはよくできたゴルフからさらにおとなしくしたもの。穏やか。デザインから感じられるイメージのままなので特に悪くは感じませんでした。
静粛性は、Cセグメントとしてはかなり静かに作られていたゴルフとほぼ同等でした。Dセグメントとしては平均点ですかね。さすがにレクサスみたいなプレミアムと比べると劣ります。(パサート試乗の直前にレクサスに乗ったので余計に。)
ライバルとの比較,価格設定
輸入車ではフォルクスワーゲン以外いわゆる大衆車というのはあまりなく、欧州メーカーではBMWやアウディなどのプレミアムメーカーばかりという状況です。ライバルとなるのは、完成度が高すぎて日本カーオブザイヤーを獲ってしまった自社の7代目ゴルフでしょうね。
パサートのコンフォートライン(359万円~)は、ゴルフの装備的に近いグレード・コンフォートライン(286万円~)に対して70万円以上高くなります。エンジンが同じ1.4Lのハイライン(323万円~)からでも30万円以上高いです。ゴルフハイラインはアルカンターラ&ファブリックシートになったり排気管が2本になったりと上級グレードになります。車体が大きくなるとはいえ、同じエンジンなのに装備が減って30万円も高くなるのは微妙ですね……。
同じDセグメントでは国産代表として、トヨタから国産セダンらしいマークXと、欧州車的な走りのマツダからSKYACTIVと魂動デザインを採用しているアテンザを選びました。
セダン
※ 1万円以下切り上げ。
こうしてみるとパサートの立ち位置は微妙です。Dセグメントにこだわりがないなら、ゴルフの上級グレードを買った方が満足度は高いでしょう。パサートのコンフォートラインはゴルフハイラインより高級感が劣ります。同じ1.4Lターボで最大トルクが同じなので常用域の加速能力は同じ。車重はゴルフの方が140kgも軽いので走りは確実にゴルフハイラインの方が上回ります。
車格や後部座席の居住性を優先するなら、トヨタ・マークXが2.5L NAの上級グレードが50万円以上安く買えます。シートはアルカンターラ(スエード)か本革(18万円UP)、ステアリングやインパネには木目調パネルがあしらわれ、Dセグメントながらプレミアムなインテリアになります。
トルクは同レベルで最大出力は50馬力以上の差。その上FRですよ。走りも内装も1クラス上ですね。
ステーションワゴン
※ 1万円以下切り上げ。
ステーションワゴンであれば ゴルフの車体を伸ばしてステーションワゴンにしたゴルフヴァリアントがあります。同じプラットフォームでステーションワゴンを作ったら何が違うんだよという感じですよね。比べてみると、200mmの全長の差を後席とトランクに充て、130kg増加し、装備を減らしても32万円の増加になってしまったのがパサートヴァリアントです。かなり荷物が多いか、常に大人が後席に乗る使い方でなければ、ゴルフヴァリアントでも実用上は十分だと思います。
同セグメントのステーションワゴンでは、アテンザが2.5L NAの余裕を持った上級グレードが45万円安く買えます。
アテンザの上級グレード「25S L Package」は高級装備はフルでついてますし、内装にホワイトレザーを選べばパサートとは違う明らかな高級感を得られます。実際に見て触ってみると分かりますが、内装の質感は明らかにアテンザが上回っています。45万円高くてパワートレインも劣ってるのにコレ↓ですよ。アテンザの白の部分はほぼすべて革ですが、パサートの白い部分は大半がプラスチックです。
アテンザでパサート(コンフォートライン)と同じ375万円も出せば、本革内装はそのままに2.2Lクリーンディーゼルの最上級グレードが買えます。最高出力は175馬力ながら、最大トルクは42.8kgm!1.5倍以上のトルクと高級内装が手に入るのにパサートを選ぶ理由ってあるんでしょうか?
パサートは外装は地味、内装も地味、走りも地味では微妙ですよね……。派手なのは価格だけ。高級装備が揃うハイラインはエンジン一緒なのに414万円ですよ。正直高すぎです。勝っているのは「ドイツ車」という価値だけ。高速走行での足周りの安定感も現在のマツダ車ならフォルクスワーゲンにも劣っていません。BMWのような「プレミアムブランド」という価値もないので勝ち目はありませんね。
日本で対等に戦うためには、本国に設定のある1.8Lターボで180馬力のエンジンを設定することと、価格帯をせめて30万円落とすことが必要だと思います。そうしなければパサートはマイナーセダンの立場から抜けられないと思います。なにげにフォルクスワーゲンの世界販売ではゴルフより売れているんですけどね。
まとめ
「地味」をそのままカタチにしたセダンがパサートです。フォルクスワーゲンに相当な思い入れが無い限り選ばれるのは難しいでしょう。
車にこだわりがあるなら、
- 車格を落としてBMW・1シリーズやアウディ・A3
- スポーティでディーゼルも選べて安いマツダ・アテンザ
車にこだわりが無いなら、
- そもそもドイツ車なんて見ずにトヨタ・マークX
パサートって日本では誰が買うんでしょうかね………。
VWはパサートに続いてゴルフ オールトラックも発売しましたが、こちらも結構厳しいです。