燃費に使う単位が「km/L」なワケ。メーカーの誘導に騙されるな!
2016/09/14
ガソリン価格が高騰し、環境問題が厳しく言われるようになった昨今、自動車の性能のうち、「燃費」は非常に注目されやすいものとなりました。
皆さんは燃費に使われる単位がなぜ「km/L」なのか知っていますか?
※ 「カタログ燃費と実燃費の差」ではなく、「同じ数値でも違って見える」ということを取り上げています。
目次
燃費とは
今さらですが、まずは「燃費」という言葉からおさらいしてみましょう。
燃費とは「燃料消費率」、つまり「自動車が走るためにどれだけ燃料を消費するか」を示す指標です。
燃費の表現
燃費の良し悪しの表現には様々な表現があります。「燃費が悪い」「低燃費」「燃料を食う」などです。燃費の表現と、それによる影響を列挙してみましょう。
良 | 悪 | |
---|---|---|
燃費の良し悪し | 良い 低い 低燃費 |
悪い 高い 高燃費 |
消費する燃料 | 少ない | 多い |
燃料にかかる費用 | 安い | 高い |
環境負荷 | 小さい | 大きい |
燃費の単位
燃費を表す単位には大きく分けて2種類あります。
- 燃料あたりの走行距離(アジア,北欧,南北アメリカなど)
- km/L:1Lでどれだけの距離を走れるか(北米だけはマイル/ガロンを使用)
- 一定距離の走行に必要な燃料(ヨーロッパ,中国など)
- L/100km:100km走るのに何Lの燃料が必要か
ご存知の通り、日本では「km/L」が使われています。さっきの表に単位を足してみましょう。
良 | 悪 | |
---|---|---|
燃費の良し悪し | 良い 低い 低燃費 |
悪い 高い 高燃費 |
消費する燃料 | 少ない | 多い |
燃料にかかる費用 | 安い | 高い |
環境負荷 | 小さい | 大きい |
「km/L」の値 | 大 例:20 [km/L] |
小 例:10 [km/L] |
「L/100km」の値 | 小 例:5 [L/100km] |
大 例:10 [L/100km] |
違和感ありませんか?
燃費が良いグループは「少ない」「小さい」「安い」という言葉が並んでいるのに、「km/L」の値だけは「大」になっています。「低」燃費なのに数字は「大きい」んですよ。
もちろん数学的にはまったく同じものを違う表現で書いているに過ぎません。
単位の違いが起きる理由と、単位が引き起こす問題を見てみましょう。
[理由]燃料消費に対する発想の違い
燃費の単位が異なるのは、「燃費」に対する発想が違うからです。
「km/L」は車の「性能」を示す単位
「km/L」、つまり「1Lでどれだけの距離を走れるか」という表記は車の性能を示しています。
数字が大きければ「わずか1Lで30kmも走れます!」となりますし、数字が小さければ「1Lでたった5kmしか走れません」となります。
この表記法は1Lからどれだけエネルギーを搾り取るかを示していて、「この車がいかに素晴らしいか」を示しているということです。車の性能を示している国に、自動車工業大国である日本とアメリカが含まれているのは面白いですね。
「L/100km」は車の「害」を示す単位
「L/100km」、つまり「100km走るのに何L必要か」という表記は車が与える害を示しています。「害」とは、「石油を消費すること」であり「二酸化炭素を排出すること」でもあります。
数字が小さければ「100km走るのに3L分の燃料費しか使いません」となり、数字が大きければ「100km走るために20L分の燃料を使い、20L分の環境被害を与えます」となります。
この表記法は100kmの移動のためにどれだけエネルギーを無駄遣いしているかを示していて、「この車がいかに害を与えるか」を示しています。環境意識の高いヨーロッパ(北欧除く)や、大気汚染が深刻な中国で使われているのは、そういった理由だと思われます。
[問題点]燃料費への影響が分かりにくい
燃費の単位に「km/L」を使うことには重大な問題店があります。それは燃料費への影響が分かりにくいということです。
仮に年間走行距離を10,000km、燃料単価を150円/Lとして、表にしてみましょう。あえて燃料費は1万円単位にしています。
燃費 [km/L] | 年間燃料費 |
---|---|
5 km/L | 30 万円 |
10 km/L | 15 万円 |
15 km/L | 10 万円 |
20 km/L | 8 万円 |
25 km/L | 6 万円 |
30 km/L | 5 万円 |
35 km/L | 4 万円 |
40 km/L | 4 万円 |
※ 1万円以下四捨五入。
理系でない(失礼)人から見れば、5増える「10km/L→15km/L」より、10増える「30km/L→40km/L」の方がよりグレードアップしてそうに感じます。でも実態は違います。
- 10 [km/L] → 15 [km/L] : 年間燃料費 50,000円 減
- 30 [km/L] → 40 [km/L] : 年間燃料費 12,500円 減
かたや年間 5万円、かたや年間 1万円の違いです。10年間所有するとして、燃料費50万円の差は車種を変えるレベルの違いですが、燃料費10万円の差は同車種でグレードが上がるかどうか程度です。
「km/L」の数字が大きくなるほど、燃料費への影響は小さくなっていってしまいます。「数字が 1割 増えると、年間燃料費も 1割 減ります」なんてのを聞いて、すぐに金額が計算できる人がどれだけいるのでしょうか?
燃費が30だ40だと言っていますが、(環境問題をさておき)年間1万円程度の燃料費差のために10万も20万も高い車を買ってしまう人がいるのは、この分かりにくい表現も理由になっています。
単位が違うと誤解も起きない
燃費の単位が「L/100km」だと、このような問題は起きません。
燃費 [L/100km] | 年間燃料費 |
---|---|
2 L/100km | 3 万円 |
4 L/100km | 6 万円 |
6 L/100km | 9 万円 |
8 L/100km | 12 万円 |
10 L/100km | 15 万円 |
12 L/100km | 18 万円 |
14 L/100km | 21 万円 |
16 L/100km | 24 万円 |
例を出してみましょう。
- 12 [L/100km] → 10 [L/100km] : 年間燃料費 30,000円 減
- 6 [L/100km] → 4 [L/100km] : 年間燃料費 30,000円 減
「数字が 2 減れば、年間 3万円 得をする」。シンプルですね。これなら文系の人にも分かってもらえるでしょう。
燃費の値と、燃料費がそのまま対応する関係になっています。
変な単位で得をする人
なんでこんな分かりにくい単位を採用しているのでしょうか?
燃費 [km/L] | 燃費 [L/100km] | 年間燃料費 |
---|---|---|
5 km/L | 20.0 L/100km | 30 万円 |
10 km/L | 10.0 L/100km | 15 万円 |
15 km/L | 6.7 L/100km | 10 万円 |
20 km/L | 5.0 L/100km | 8 万円 |
25 km/L | 4.0 L/100km | 6 万円 |
30 km/L | 3.3 L/100km | 5 万円 |
35 km/L | 2.9 L/100km | 4 万円 |
40 km/L | 2.5 L/100km | 4 万円 |
比較してみてください。
- 30 [km/L] → 35 [km/L]
- 3.3 [L/100km] → 2.9 [L/100km]
- 年間 50,000円 → 年間 43,000円
どれが一番すごそうに見えますか? 数字の苦手な人を騙すには小さな差を大きく見せるのが大事です。
メーカー、あるいは自動車産業に大きく依存している社会では、消費者にもっと積極的に新車に乗り換えてほしいですよね。単位変換や数値計算の苦手な奥様方が財布の紐を握っていることが多い社会で、「年間7,000円安くなります!」なんて正直に言ったら100万円の買い物をしてくれるわけがありませんよね?
「車の維持費高いですよね? この車に替えたら燃費が 5 km/Lも良くなりますよ!」
なんて風に議論の差し替えをしてくるわけです。
車を買うのに年間燃料費をちゃんと計算している人なんて多くありません。多くの人は「なんとなく良いクルマ」を買うわけです。数値の妙ですね。国内のハイブリッド販売にも影響していることでしょう。
似たような例:エアコン
エアコンのカタログ表記も結構大人げないこと(これでも工業規格)をしています。
エアコンは「期間電気代」というものを表記しています。そのエアコンを使ったときの年間電気代がいくらなのかを示した金額なんですが、その条件がかなり酷いです。
- 東京の木造住宅を想定
- 5月23日~10月4日(約4ヶ月)は、毎日6:00~24:00の18時間、冷房(27度設定)を付けっぱなし
- 11月8日~4月16日(約5ヶ月)は、毎日6:00~24:00の18時間、暖房(20度設定)を付けっぱなし
一般家庭で毎日昼間に常に冷暖房をかけてる家庭ってあるのでしょうか? 多くの家庭は平日昼間は長時間家を空けていると思います。しかも東京の5月や9月は涼しいですし、4月に暖房なんて不要です。
こんな非現実的なモデルにしているのには理由があります。期間電気代の差を大きくして、高価格製品を買わせたり、買い換えを促したりするためです。
- 本体:10万円、期間電気代:50,000円
- 本体:15万円、期間電気代:40,000円
たった5年で元が取れるなら15万円の方を買おう!となってしまうことでしょう。でも実際はこんなもんです。
- 本体:10万円、実際の年間電気代:10,000円
- 本体:15万円、実際の年間電気代:8,000円
25年で元が取れますよ!やったね!……それまでにエアコン自体が壊れます。
まとめ
単位や数字の妙に騙されることなく、ちゃんと自分で「良いもの」を判断しましょう。
ちなみにうちのアルファロメオ・ジュリエッタは、メーター内ディスプレイ(トップ画像)に表示する燃費の単位を「km/L」「L/100km」どちらも選べます。欧州車や、欧州向けと仕様が同じ車だと選べるのでしょうね。慣れれば L/100km の方が分かりやすいですよ。