猫も杓子もボクスターもダウンサイジングする悲しい理由
2015/09/09
このフェイスリフトではヘッドライト、エアインテーク形状、フロントバンパー、リアコンビランプがリフレッシュされるようだ。(ポルシェ ボクスター に初の4気筒!?)
新型ボクスターに関しては、歴代に搭載してきた水平対向6気筒(フラット6)ではなく、4気筒ターボエンジンが搭載されるという噂が前から出ています。実際、ポルシェのミドルサイズSUV「マカン」には直4がラインナップされていることから、ポルシェにおけるエントリースポーツカーであるボクスターが4気筒を搭載してもおかしくありません。
ダウンサイジングターボとは?
最近の欧州車の大きな流れである「ダウンサイジングコンセプト(あるいはダウンサイジングターボ)」。排出ガスや燃費のために排気量を小さくして、不足するパワーをターボチャージャーやスーパーチャージャー(あるいは両方)で補うものです。2005年にフォルクスワーゲン・ゴルフにTSI(ターボとスーチャーを両搭載)が出て以降、ヨーロッパではかなり多くの車種がこの方法で燃費の向上を図っています。国産車でもここ1,2年の間に同様のコンセプトによる車が登場しつつあります。
ダウンサイジングターボが日本で普及しない理由
ハイブリッドがやたら普及している日本国内とは、そもそも目的としている場所が違います。ハイブリッドカーは東京都心部や首都高速、その他各都市部の渋滞で最も威力を発揮します。なぜならハイブリッドカーに搭載されるモーターは、発進が最も得意だから。一方高速道路で巡航しているときや、高速域での再加速・追い抜きではむしろガソリン車より燃費が悪くなってしまいます。高速域ではモーターとバッテリーはただの重量物にしかなっておらず、非力なガソリンエンジンに鞭を入れて走らないといけないからですね。
高速道路をガンガンに飛ばしてるプリウスとか見ると、バカなんじゃないかとよく思います。その乗り方なら通常のガソリン車のが走りも燃費もいいでしょうに。
ヨーロッパでは多くの場合日本ほど渋滞が激しくはない(パリやロンドンでは東京より全然流れてた)ので、そこを重視する必要はあまりありません。それより広ーい大地に作られた高速道路を安定して高速に走れないといけません。だから単純にエンジンパワー自体が必要ですし、足回りもガッチリ安定したものになるわけですね。
結局、日本での優先順位は[発進>パワー]なので、発進に強いハイブリッドカーや、車体が軽い軽自動車やコンパクトカーが売れます。ヨーロッパでの優先順位は[発進<パワー]なので発進加速力は多少捨ててでも絶対的なパワー(高速再加速)が欲しいわけです。
技術革新の速度以上に燃費を向上させるには、何かを犠牲にしなくてはいけません。ハイブリッドは高速域のパワーと燃費を犠牲にし、ダウンサイジングコンセプトではゼロ発進の加速力を犠牲にしています。
なんでボクスターまでも燃費向上しないといけないのか?
ボクスターはスポーツカーです。燃費向上にそんなにシビアにならなくても、ユーザーは買ってくれるように思いますよね。
でも昨今のヨーロッパでの排出ガス規制はかなり厳しくなっていて、販売を長期に続けていこうとすると根本的な燃費向上を図らねばなりません。スポーツカーでもハイブリッドシステムを積んだ車もありますが、ポルシェの場合は販売する地域やユーザー層から、ダウンサイジングコンセプトにその答えを求めたわけですね。
ダウンサイジングターボの車自体はそんなに悪いものではありません。加速時のフィーリングは多少悪くなりますが、必要十分なパワーが得られますし、同程度のパワーを持った過去の車体よりは燃費が向上しています。環境環境と叫ばれる昨今の自動車業界で生き残るには必要な技術だったのでしょう。
実際私はダウンサイジングターボの車に乗っています。1クラス上の排気量の自然吸気エンジンと同等の加速力(とくに高速域)が得られますし、燃費もこのパワーにしてはさほど悪くない。日本だと自動車税は排気量で決まるのでやや安くなるというメリットもあります。
ですが、なんでもかんでもダウンサイジングターボを採用すればいいわけではありません。特にポルシェが採用している水平対向6気筒から(仮に)直列4気筒になるとすれば、振動やフィーリングの大幅な悪化は避けられません。エンジンの重心位置を上げずに搭載できるかも疑問です。ポルシェ伝統のフラット6がボクスターのラインナップから無くなるわけではなさそうですが、ポルシェがSUVではなくスポーツカーにそれを搭載するとなれば一大決心なのでしょう。
もしこれがボクスターだけでなく911にも搭載されるとファンは怒りそうな気がしますね……。空冷から水冷を採用したときにも批判がありました。あのデザインと時代遅れ感のあるRRレイアウト、そしてフラット6を今でも採用しているのは伝統を守るためなのでしょうから。