圏央道トンネル事故に見る、開通したての高速道路に潜む危険
2015/07/03
圏央道の千葉県区間で、トンネル事故が発生しました。事故が起きた区間は暫定2車線の対面通行区間。この事故から最近開通したばかりの高速道路に潜む危険が浮かび上がってきます。
どんな事故だったの?
対面通行の笠森鶴舞トンネルを走行していた乗用車に対し、後ろから進行してきた別の乗用車が追突。2台は弾みで対向車線側へ逸脱したが、対向車線を順走してきた別の乗用車2台と次々に衝突。この事故で1人が死亡、6人が軽傷を負っている。追突車を運転していた男は「考えごとをしていて、気づいたら前方にクルマがいた。避ける間もなくぶつかった」などと供述しているようだ。(対面通行トンネルで車両4台の多重衝突、7人死傷から抜粋)
つまり、1対1の追突事故が起き、その2台が対向車線にはみ出したことで、対向車2台が巻き込まれた。そして、追突されたドライバーは死亡した。
この事故の原因
発端は「前方不注意による追突事故」。これは通常の高速道路でも起こりえます。しかし今回の事故が大きくなった要因に「暫定2車線の対面通行」があるのは明らかです。
圏央道の大部分は暫定2車線
この事故が起きた高速道路は、2013年4月に開通した圏央道です。この区間を含め、圏央道は大部分が「暫定2車線」で開通しています。
暫定2車線とは、あまり交通量が見込めない高速道路の建設で、初めから4車線(片側2車線)で開通させるのではなく、まず2車線で開通させて初期投資を減らす、というものです。最近建設されている地方高速道路の大半がこの方式をとっています。一気に4車線を建設するほどのコストはかけらないし、その余裕があったら他の高速道路建設に回してしまうのでしょう。
そのうち特に事故が起きやすいのが、「片側暫定方式」と呼ばれる形態です。片側暫定方式とは、2車線+2車線の4車線計画のうち、上下いずれかの2車線のみを先に建設して、そこに暫定的に上下の交通を流す方式です。
つまり、[↑走行↑ | ↑追越↑ || ↓追越↓ | ↓走行↓]の構造の片側に、[↑走行↑ | ↓走行↓]と走らせるわけです。中央分離帯を作る場所は無いので、暫定的にブロックやポールを立てて対向車線へのはみ出しができないようにしています。
高速道路催眠現象
片側暫定方式では、対向車線と隔てるのは簡易的なブロックやポールのみ、つまり中央分離帯の無い一般道と同じですね。でもそこを走るドライバーの感覚は「高速道路」でしょう。インターチェンジやサービスエリアの設備、呼称も、法的にも「高速道路そのもの」です。制限速度は低くとも、信号はなくカーブや勾配が緩やかなので、集中力の低下が起こりやすくなります。こうなると危険なのが「高速道路催眠現象」を起こす可能性があること。「高速道路催眠現象」とは、
運転操作が少なく、また走行中は単調な風景が続くために、運転者の眠気を誘発し居眠り運転の原因となったり、たとえ目を開いていたとしても判断力や注意力などの鈍麻から運転意識の低下を招きやすい。(Wikipedia)
今回の事故も、この現象が起きていたのかもしれません。そして片側対面通行でひとたび衝突事故が起きると、対向車線を走る車を巻き込むことで甚大な事故に発展しやすくなります。
安易に暫定2車線を採用すべきではない
日本ではこの暫定2車線方式が積極的に採用されています。総務省の2014年の資料によると、Nexco中日本だけでも実に49本の対面通行トンネルがあります。
- ネクスコ中日本名古屋支社管内には対面通行区間が135kmある。
- うち40%にあたる55km(49本)が対面通行トンネル。
限られた予算の中で、各地方の需要対応や都市部の渋滞緩和を効率よく勧めるためには、暫定2車線方式は歓迎されることかもしれません。ですが、「暫定」とは言ってもそこに車が走ります。十分な安全策が取られていると言えるでしょうか?
新東名の浜松いなさJCTは、4年間は東京方面のみで運用されるこのJCTでは、未開通区間との境界にガードレールを設置しています(写真の黄色いタンクより左側の部分)。
新東名なので速度域が高いこと、予算が十分であること、JCT内のみであることから設置されたのでしょうが、安全上必要だから設置されているのです。もし簡易ブロック+ポールでは安全上不十分なら、より強固な境界を設置すべきです。安全のための予算が確保できないなら、そもそもその高速道路を開通させるのは早計なはずです。
危険を伴う方式を安易に採用する前に、相応の安全対策が図れるのかを十二分に検証する必要があるはずです。