3代目ミニクーパー/クーパーS試乗記!3気筒エンジンの評価は…?
2015/07/31
BMWになって3代目となるミニに試乗してきました。3代目は2014年から日本で販売されています。
試乗したのは、最もオーソドックスな「クーパー」と、エンジンが1グレード上の「クーパーS」です。試乗車のラインナップから以下の2台に乗りました。
- クーパー 3ドア 6AT
- クーパーS 5ドア 6AT
クーパーとクーパーSでこれほど差があるとは思わなかったので、同一車種2台ながら価値ある試乗になりました。
同じおしゃれ輸入車のフィアット・500試乗記や、ミニクーパーとフィアット500徹底比較もあわせてご覧ください。
目次
歴代の比較
ミニクーパーはかつてBMCが販売していたミニをモチーフにリバイバルされた車です。現代の衝突安全基準やユーザーの要求の変化によりボディサイズを拡大して販売しましたが、デザインコンセプトは元々のミニ(クラシックミニ)から大きく変えずに現代風にアレンジしたことで人気を博しました。現在のミニはBMWの1ブランドです。
そんなミニも他の多くの車の例に漏れず、世代を追うごとにボディサイズを拡大してきています。
左から順に、3代目BMWミニ、2代目BMWミニ、初代BMWミニ、BMCのクラシックミニです。徐々に大きくなっているのが分かると思います。
初代 2001~2006年 |
2代目 2007~2014年 |
3代目 2014年~ |
||||
---|---|---|---|---|---|---|
クーパー | クーパー S |
クーパー | クーパー S |
クーパー | クーパー S |
|
全長 | 3,650 | 3,655 | 3,740 | 3,745 | 3,835 | 3,860 |
全幅 | 1,690 | 1,685 | 1,725 | |||
全高 | 1,445 | 1,430 | 1,415 | 1,430 | ||
ホイール ベース |
2,465 | 2,465 | 2,495 | |||
車重 | 1,140 | 1,180 | 1,170 | 1,270 | 1,200 | 1,270 |
AT | CVT | 6AT | 6AT | 6AT | ||
エンジン | 直列4気筒 | 直列4気筒 | 直列 3気筒 |
直列 4気筒 |
||
排気量 | 1600cc | 1600cc | 1500cc | 2000cc | ||
過給器 | - | SC | - | ターボ | ターボ | ターボ |
最高出力 | 116 PS | 170 PS | 122 PS | 184 PS | 136 PS | 192 PS |
最大トルク | 15.2 kgm | 22.4 kgm | 16.3 kgm | 24.5 kgm | 22.4 kgm | 28.6 kgm |
価格 | 255 万円~ |
285 万円~ |
274 万円~ |
316 万円~ |
280 万円~ |
332 万円~ |
※ いずれも3ドア・AT車。SCはスーパーチャージャー。1万円以下切り上げ。
極端に小さかったクラシックミニはともかく、リバイバルミニは初代から3代目で、全長は200mm以上、全幅は30mm以上拡大しました。ボンネット高が上がった(歩行者保護のため)こともあって車体サイズの拡張が見た目にも十分見て取れます。
全長3m80cm台となると、日本の主要コンパクトカー群(ヴィッツやフィットなど。ほとんど3m95cm)と同じレベルです。全幅は日本で言う5ナンバーサイズ(1700mmまで)をややはみ出して3ナンバーとなりました。
初代は当時の他の車種と比べても「特に小さい車」といった雰囲気でしたが、現行の3代目は立派に「普通のコンパクトカー」なサイズに成長しました。新型になっても車体サイズを一切変えなかったフィアット・500とは対照的です。「ミニ」という車のアイデンティティという意味ではどんどん純度が薄れているなぁという感じもしますが、クロスオーバーやらクラブマンやらを出しているくらいなので、ミニ自身が小さいことにこだわり続けるつもりはあまり無いのかもしれませんね。ちなみに対するフィアットは、車体の大きい500Lやら500Xやらを出しつつも500のサイズは変えないという戦略です。
主要なグレードの価格帯は200万円台後半~350万円程度。最廉価の「ONE」のMTが226万円です。100万そこそこで税金が安い日本の軽自動車を買う人ならともかく、ここまでの金額を出して買う人が狭っ苦しい車内に満足するかはいささか疑問です。ぐんぐん車体が大きくなったのは「プレミアムコンパクト」「プレミアムBセグメント」といった領域で攻める以上は致し方ないところなのでしょうね。
やや大柄に見えてしまうエクステリア
車体サイズが大きくなりながらも、一貫したデザインコンセプトを保ち続けているのは賞賛に値します。でも、シンプルでミニマリズム的だったクラシックミニや初代から見ると随分大柄で、悪く言えばけばけばしいスタイルになったなぁと思ってしまいます。
ちゃんと色塗れよ(褒め言葉)と思わせるつや消し黒のフェンダーアーチや、空気抵抗なんて考えたことない(褒め言葉)ドアミラーの形状なんかはクラシックミニの名残ですかね。フェンダーアーチのボディ同色塗装がオプションでも設定されていないのには驚きました。こだわりなんですかね。私が買うならショップに塗装してもらいます。
後ろ姿も「かわいらしい」というより「どっしりしてる」といった佇まい。ミニにはおしゃれさやクラシカルさ以外にも、スポーティさも求められるので、どんどん「走れそうな」デザインになっていってるのでしょうね。
デザインが一貫したインテリア
好みによる賛否はあれど、この時代にこのデザインは総じて素晴らしいです。ハッキリと(というかやり過ぎなレベルで)「円」を基調としてすべてのインテリア要素が作られています。
ステアリングはBMWってよりアウディっぽく見えてしまうなぁ。ほとんど同じデザインじゃないか。
メーター,インフォテイメントディスプレイ
先代まではスピードメーターが中央にあって正直見づらかったんですが、3代目にして通常のステアリングから覗く位置になりました。メーターはステアリング側に固定されているので、ステアリング位置を上下に移動してもメーターの見え方が変わらないのは非常にありがたいですね。
中央のメーターがあった位置にはナビ兼インフォメーションディスプレイが入ります。ただ、(Sでない)クーパーとワンでは、オプションのナビゲーションパッケージ(178,000円)を付けないとオーディオのみになります。デザイン的にも場所的にもナビの後付けは難しい(ダッシュボード上に画面を置くくらいしか無い)ので、ナビが必要ならこのオプションを付けることになります。
インパネ,シフトレバー
インパネのスイッチ類は凝ったデザインで質感も高く良好でした。エンジンスタートスイッチがトグルボタン風なのもおしゃれでいいですね。個人的にはキーをひねる方が好きですが、BMWなのでさすがにそこまではしてくれませんよね。ちなみにフィアット・500やアルファロメオ・ジュリエッタはいまだにキーをひねってエンジンをかけます。さすがイタリア。
シフトレバーは[P-R-N-D]がシフトてっぺんに表示されます。うーん見た目が先進的すぎる。もっとクラシカルな感じにしてほしかったなぁ。マニュアル車と多くの部品を共用させるためにはやむを得ないんですかね。
フロントシート
シートはクーパーとクーパーSで異なります。クーパーのシートは左右の張り出しが少なく、横Gが大きくかかると体が動いてしまいます。特に座面はほぼフラットなのでお尻の位置が動いてしまいますね。
一方クーパーSのシートは結構張り出しが大きく体がちゃんと固定されます。ただ、私が座った感じではクーパーSのシートは腰の辺りのクッションが体に届いておらず、クーパーに比べて腰に負担がかかりそうでした。
クーパーSのシートは太ももの下のクッションを前に出すことができます。でも少し動かしたらすぐに膝の裏に当たってしまい「おまえ足短いな」って言われているようで不快でした(言いがかり)。個人的にはこの機能はいりませんね!
クーパー・クーパーS共にシートの高さ調整下限はハッチバックにしては結構深く、かつ下げるほどにお尻側が低くなるように傾斜がつくので着座位置は良好でした。高さと連動して傾斜が変わる以外、座面独立の傾斜調整機能が無いので、人によっては合わないかもしれません。
リアシート
リアシートも車体サイズにしては十分な広さと座り心地でした。トランクを犠牲にしただけありますね。
ただ、3ドアの乗降性は難ありです。乗るのはまだいいんですが、うまく降りるのは至難の業でした。荷物持って後部座席から降りるとかだともっと難しいですね。
ほんの少しドアサイズを延長すれば乗降性は良くなりそうですが、フィアット500と同じでエクステリアデザインを優先させた結果なのでしょうね。ドアが大きいとどうしても不格好になってしまいます。
トランク
トランクスペースは車体サイズからするとやや狭めです。リアシートサイズを十分確保した結果なのでしょうね。リアシートを畳めば結構なスペースを確保できるので、2人乗車なら特に問題は無いと思います。
走り
ミニをスポーティコンパクトと見れば、走りは重要。でもスポーティ以前にプレミアムコンパクトとして重大な問題がありました。
エンジンは「圧倒的に」クーパーSの方が良い
先代はいずれのモデルも直列4気筒エンジンでしたが、現行のミニでは直列3気筒エンジンも使われています。「ワン」「クーパー」は直列3気筒で、それぞれ1.2L ターボ、1.5L ターボです。「クーパーS」になると、直列4気筒の2.0L ターボになります。
スペックをおさらいしておきましょう。
クーパー | クーパーS | |||
---|---|---|---|---|
車重 | 1,170 kg | 1,200kg | 1,240 kg | 1,270 kg |
AT | 6MT | 6AT | 6MT | 6AT |
エンジン | 直列3気筒 | 直列4気筒 | ||
排気量 | 1500cc | 2000cc | ||
過給器 | ターボ | ターボ | ||
最高出力 | 136 PS | 192 PS | ||
最大トルク | 22.4 kgm | 28.6 kgm | ||
価格 (ナビ無し) |
266 万円~ | 280 万円~ | - | - |
価格 (ナビ付き) |
284 万円~ | 298 万円~ | 318 万円~ | 332 万円~ |
※ 3ドア。1万円以下切り上げ。
クーパーは直列3気筒エンジンです。このエンジン、音と振動が荒々しく、とても200万円台後半とは思えないようなあまり快適とは言い難い乗り心地でした。1500ccターボなので車重に対して十分なパワーがあるのですが、いかんせん振動と音が気になって「プレミアム」を感じさせてはくれませんでした。
フィアット・500の2気筒エンジン「TwinAir」くらい思い切ってくれれば、それも雰囲気として楽しめるんですが、これではただの低品質エンジンですよ(参考:フィアット500&500C試乗記!TwinAirと1.2の走りの違い)。日本の軽自動車はみんな3気筒エンジンですが、排気量が小さいからかミニより音も振動ももう少しマシですね。
クーパーSは排気量の拡大もさることながら、エンジンが直列4気筒にグレードアップします。この差はあまりにも顕著で、アイドリングでも走っても振動レベルも静粛性もまるで違います。クーパーSでやっとプレミアムを名乗れるエンジンになります。
性能的にはクーパーの1500ccターボで十分なのに、振動や音の面で直4のクーパーSにしたくなるという難しい悩みが発生することになります。ナビ+インフォメーションディスプレイがクーパーではオプションですが、クーパーSでは標準装備なので、純正ナビ装着を前提にすれば価格差は34万円程度になります。LEDヘッドライトなど他の装備も変わるので、意外とクーパーSとの差額は小さく、これだけエンジンの差があるなら(オーバースペックでも)クーパーSの方がいいんじゃないかという結論になる人が多いのではないでしょうか。
廉価モデルのワンは3気筒エンジンで良いんでしょうが、クーパーには4気筒を採用して欲しかったですね。むしろクーパーとクーパーSとの価格差を小さく見せて、クーパーを買おうとしてた人にクーパーSを買わせるという回りくどい商売をしているんじゃないかと思いましたよ。
パワー感
この車重とミニの性格ならクーパーの1500ターボで十分だと思います。車重も1200kg程度ですし、低速から十分効いてくれるターボは常用域で走りやすいです。トルクフルなダウンサイジングターボらしい乗り味です。
クーパーSの2000ccターボだとほとんどの人にはオーバーパワーだと思います。クイックなステアリングセッティングと相まってか、フルアクセルにすると軽くトルクステア(ハイパワーFFでハンドルを切っていないのに車が曲がろうとする現象)が起きました。1500ccターボのクーパーでは試乗の範囲ではフルアクセルでもトルクステアは感じませんでした。
さすがにワンの1200ターボだとややパワー不足を感じるでしょう。VW・ゴルフ(7代目)の良くできた1200ターボですらやや不足を感じたので、ワンは完全に見た目目的で買う人用でしょうね。
足周り,剛性
ステアリングがかなりクイックなのでキビキビ動くように感じますが、車体はかなりしっかりしていて強い車体に守られている感を強く感じます。良くも悪くもBMWらしいな、と感じました。古き良きブリティッシュライトウェイトの軽々走る感じは無く、昨今の車体+トルクフルなダウンサイジングターボの重厚感のある走りでした。
とはいえドイツ高級車のしっとりした走りではなく、良い意味で簡単に動く車体はクラシックミニの雰囲気を醸し出そうとしているのだろうな、とは感じます。大きく重くなった車体をなんとか軽く感じさせようとしたんでしょうね。
トランスミッション
今回はATのみに乗りました。
普通にDレンジに入れて走るとばしばし上のギアに変えてしまうので、低速トルクが大きいとはいっても走りにくかったですね。燃費重視モードです。左に倒すとSモードになって、ギアチェンジのタイミングが走りやすいレベルになります。むしろこっちが通常モードなくらい。この状態で前後に倒すとマニュアルモードでギアチェンジできます。
ATの出来はなかなか良かったです。クーパーSでフルアクセルしても滑り感はあまりありませんでした。ただ、ギアチェンジのショックはトルコン式にしてはやや大きめでしたね。欧州車の流れやBMWのラインナップからすると、今モデル中のハイパフォーマンスモデルか次期モデルではDCT(MT構造のAT)が採用されることでしょう。
まとめ
3気筒エンジンの質の悪さが際立ってしまい、せっかくよくできた車なのにもったいないなぁというのが正直なところ。ミニを選ぶなら以下の二択に収束されるでしょうね。
- デザインだけで買うなら、低品質な3気筒かつ非力ながらクーパーより40万円安い「ワン」。
- 「プレミアム」や「スポーティ」も含めて買うなら、4気筒の「クーパーS」。トルクステアに注意。
もっと広くもっとでかくて「ミニ」は名前だけでいいならクロスオーバーへどうぞ。
クラシカルデザインが現代で生き残るために趣向を凝らした良いクルマだと思います。ただ、デザインに相当な思い入れがなければあえてミニを選ぶ理由はあまり無いのかもしれません。
クラシックミニに思い入れの無い私は、3ドアミニを買うならフィアット500、5ドアミニを買うならマツダ・デミオ(現行)にするでしょうね。
フィアット・500試乗記や、ミニクーパーとフィアット500徹底比較もあわせてご覧くださいね。