ボルボの新ディーゼル試乗レビュー!音は消しきれてないけどトルクフルで好感触
7月24日にボルボが日本にディーゼルエンジンを5車種同時に投入してきました。
欧州車がクリーンディーゼルに向かっているのは時代の流れ(すでにヨーロッパではディーゼルの割合が半数を超えているとのデータも)とはいえ、主力5車種に同時投入するのはかなり大胆です。普通のメーカーなら1、2車種に投入して市場の反応を見て、好評なら他の車種に投入しつつガソリンエンジンモデルを徐々に縮小するという戦略を取るでしょう。
一気に投入するのは相当な自信や勝算があるのか、単に思い切りがいいだけなのか、実際に乗ってみて確かめてみました。
Cセグメントハッチバック「V40」
試乗したのはCセグメントハッチバックの「V40」です。フォルクスワーゲン・ゴルフ、BMW・1シリーズ、マツダ・アクセラなどと同じクラスですね。ガソリンモデル「T4」を試乗したことがあるので比較しやすかったです。今回投入されたディーゼル5車種はいずれも全く同じ2.0Lのエンジンを搭載しています。
グレードはディーゼルの上位グレード「D4 SE」。レザーシートやパノラマガラスルーフを装備するなどほぼフルオプションでした。
V40ラインナップ
現在のラインナップは新型ディーゼルの「D4」、ガソリンのハイパワーグレード「T5 R-DESIGN」をメインに、旧モデルの「T4」を併売しているという状況です。WebのカタログからはT4は無くなっていますし、排気量を落とした新ガソリンモデル「T3」の登場が決まっているので、「T4」は在庫限りの販売でしょうね。
V40 D4 | V40 T5 R-DESIGN | V40 T4 (旧モデル) |
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エンジン形式 | 直列4気筒 ディーゼルターボ |
直列4気筒 ガソリンターボ |
直列4気筒 ガソリンターボ |
排気量 | 1,968 cc | 1,968 cc | 1,595 cc |
最高出力 | 190 PS / 4,250 rpm | 245 PS / 5,500 rpm | 180 PS / 5,700 rpm |
最大トルク | 40.8 kgm / 1,750-2,500 rpm | 35.7 kgm / 1,500-4,800 rpm | 24.5 kgm / 1,600-5,000 rpm |
車体重量 | 1,540 kg | 1,510 kg | 1,430 kg |
価格 | 349 万円~ | 440 万円~ | 315 万円~ |
元々1.6LガソリンターボというCセグメントではやや余裕のある排気量だったので、2.0Lディーゼルとのパワー差は10馬力と小さいです。一方トルクはディーゼルらしく1.5倍以上の40kgm超えを果たしています。ちなみに、日本で唯一ディーゼルを大々的に売っているマツダのCセグメント「アクセラ」のディーゼルモデルは2.2Lで175PS/42.8kgmです。
価格はガソリンターボの旧モデルから30万円以上高くなっています。車体価格の1割なので結構大きいですね。その価値はあるのでしょうか?
ディーゼルの走り
音・振動
ディーゼルで気になるのは特有の音と振動です。うまく抑えられているのでしょうか?
まずアイドリングでは、車内にいる限りは音も振動もまったく気になりませんでした。車外に出ると結構な音量で「カラカラカラカラ」と鳴っているので、音の発生を抑えたのではなく車体の静粛性で吸収したようですね。振動もほぼ感じなかったので車体の造りはかなり優秀なのでしょう。
走り出すとディーゼル音が顔を出します。振動はあまり大きくないので気になりませんが、ディーゼル特有の音は消しきれなかったようですね。
軽自動車や非力なミニバンでエンジンぶん回して走る時に比べたらかわいいものですが、V40のガソリンモデルや他社同クラスに比べるとどうしても気になってしまいます。特にフォルクスワーゲン・ゴルフ(7代目)の静粛性がものすごく良かっただけに、Cセグメントをディーゼルだけで戦えるレベルにはまだ到達していませんね。だからT3を投入するのでしょうが。
大きく踏み込んだ時の音は大きく、乗っている人(特にドライバー)は気になるでしょうね。
加速感
ディーゼルの低回転トルクは圧倒的で、ガソリンエンジンなら3000ccクラスの強烈な加速を見せてくれます。これのために30万円払うんだろうなと思いつつ、カラカラ音を気にも留めずマニュアルモードで加速するとあっという間にトルクが落ちてしまいます。ディーゼルなので最大回転数が低いこともありますが、V40は中央に液晶スピードメーターがあってタコメーターは右側に縦メーターで表示されます。これは見にくい!と思ったら中央をアナログタコメーター、内部にデジタルスピードメーターにもできるんですね。さすが液晶メーター。
メーターの話はさておき、ディーゼルの加速が強烈なのは低回転のみ。トルクバンドをうまく活用して走らないと「回らないエンジン」という評価になってしまうでしょう。一方自動変速モードで走ればトルクバンドを気にすることなくトルクフルな加速を体験できます。特にSモードに倒したとき(自動変速のままも可能)はぐいぐい走ってくれます。回転数が早々に頭打ちになるので次々変速が必要になる(8速ATです)のは仕方ありません。ガソリンエンジンならそれこそ5速ATでも結構快適に走れますが、ディーゼルの狭いトルクバンドを活かすには8速ぐらいないといけないのでしょうね。
フィーリングはガソリンエンジンと異なるので好みがあるとは思いますが、単体で評価すればとても良いエンジンだと思います。
V40は1,540kgもあります。Cセグと思えぬ重量でもこの走りなら良いですが、まったく同じ2.0Lディーゼルエンジンを搭載するXC60なんかはさらに重く1,800kgもあるので強烈トルクというディーゼルの美点が霞んでしまいます。XC60では2.5Lガソリンターボ「T5」(254PS/36.7kgm)もラインナップされているので、少々高くてもこちらの方が性能と価格のバランスがいいでしょうね。
インテリア
せっかく乗ってきたことなので、V40のエンジン以外も評価しましょう。
エクステリア
Cセグメントにしてはルーフラインが低くスポーティに見えます。全長こそ気持ち長め(4,370mm)ですが、実は全高は1,440mmと特別低くはありません。VW・ゴルフとアルファロメオ・ジュリエッタが1,460mm、マツダ・アクセラが1,470mm、BMW・1シリーズが同じ1,440mmです。実際に外から見ても低く感じたのはデザインの妙ですね。
インパネ
インテリアの質感は総じて高いです。価格帯も含めBMW・1シリーズやアウディ・A3にぶつけられる品質です。
インパネが薄く浮いた造りなんかは他にはない独創的なものです。こう言った部分を指して「スカンジナビアン・デザイン」と呼ばれるのでしょうね。
残念なのはセンターに仰々しく鎮座するテンキー。なんだか急に生活臭がして残念な気持ちになります。もしかしたら実用的なのかもしれませんが、まったくオシャレじゃない。少なくともイタリア人はやらないでしょうね。スウェーデンの美的感覚は謎です。
シート
シートの座り心地がものすごく素晴らしいです。特にフロントシートはCセグメントでトップクラスではないでしょうか(アウディ,BMW,ルノー,シトロエン,アルファロメオ,フォルクスワーゲン,プジョー,マツダと比較)。ただし、レザーシートに限ります。腰痛持ちなど人によってはシートだけでも購入を決める理由になるでしょうね。
パワーシートの調整機構は良い仕事をしてくれますが、腰の部分を膨らます機能(ランバーサポート)はありませんでした。そのままでも快適だからでしょうかね……。
まとめ
完成度の高い1.6Lガソリンターボエンジンに対して30万円払えるかというと微妙なライン。燃料費が安くなる分は10万キロざっくり10万円には達するはずなので、カラカラ音が許容範囲内なら選んでもいいと思います。
私はカラカラ音が気になってしまったので、エンジンのフィーリングが合っていることも含め「T4」を選びたいところですね。
1.5Lの新型4気筒ガソリンターボエンジン「T3」が「T4」よりも安い価格で出て来ると非常に良いポジションになるでしょうね。ミニクーパーで3気筒に懲りたので、排気量を落としても4気筒を堅持したのは好感が持てます。ディーゼルのフィーリングが合わない人はT3を待つのもいい手だと思いますよ。