BMWがインテルと提携!面白いけど将来揉めそうな予感…。
ドイツの自動車メーカー「BMW」、アメリカの半導体大手「インテル」、それにイスラエルの車載センサーメーカー「モービルアイ」の3社が提携することを発表しました。
完全自動運転車を開発する上でなかなか面白い組み合わせの3社だとは思いますが、これは将来的に揉めそうな予感……。
目次
自動運転で提携する3社
まずは提携を発表した3社を紹介しておきましょう。
BMW
言わずと知れたドイツの自動車メーカー「BMW」。グループ傘下には、クラシックミニをモチーフにしたMINI、高級車の代名詞ロールスロイスが含まれています。2015年の自動車販売実績はBMWグループ全体で224万台に達します。
日本ではかつてメルセデスベンツと並んで高級欧州車の代表のような存在でしたが、最近ではBMW・1シリーズやミニクーパーの登場によって裾野が広がり、街中でもよく見かけるようになりました。Aシリーズやスマートブランドを擁するベンツと同じ経路をたどってきましたね。
企業コピーは「駆け抜ける喜び」。かつては直列6気筒エンジンが「シルキーシックス」と呼ばれたり、FF全盛の現在でもFR車にこだわる(一部FFもありますが)など、運転の面白さに重点を置いた自動車メーカーです。
従業員は10万人を超え、2015年の売上高は日本円で約11兆円、純利益は約8,000億円に達します。今年で設立からちょうど100周年です。
インテル(intel)
こちらも超有名半導体メーカー。パソコンやスマートフォン、タブレットなどの頭脳「CPU」の製造で世界の頂点に立つ企業です。
最近は、iPhoneのCPUに採用されているなどで躍進するARMに市場を奪われつつもありますが、技術力と市場独占力では圧倒的存在感を放っています。
半導体製造を他社に委託せず、すべて自社製造なことも特徴的です。求められる技術レベルが高すぎて、インテルの最新CPUはインテルしか製造できないことがその理由だそうです。
こちらも従業員数10万人超え、2015年の売上高は約5兆円、純利益は1兆円に達する巨大メーカーです。設立から約50年になります。
モービルアイ(MOBILEYE)
まだ名の通ったメーカーではありませんが、自動運転技術や自動ブレーキ技術ではかなりのシェアを誇る先進企業です。本社はオランダですが、元々はイスラエルの会社です。
得意なのは単眼カメラでの自動車認識です。先行車追従や車間距離警報、自動ブレーキなどで必要となる技術ですが、かつてはレーダーやステレオカメラが必要でした。モービルアイは安価に実装できる単眼カメラで車両検知が可能で、その技術や半導体、センサーなどを自動車メーカーに販売して利益を上げています。
BMWには元々販売先、つまり顧客として技術や製品を販売してきました。今回の提携で共同開発に着手することになります。
従業員数は500人程度、2015年の売上高は約250億円、純利益は70億円です。創業は1999年でまだ17年です。
圧倒的規模の差と重なる技術領域
売上高や利益だけが会社の評価ではありませんし、BMWのうちで自動運転を扱う部門がほんの一部なのも分かっています。ですが、いくらなんでも規模が違いすぎる。
よくある大企業とベンチャー企業の提携どころではありません。世界的巨大企業2社と小さな会社です。歴史も全然違う。
その上今回の提携のうち、インテルとモービルアイはどちらも「半導体を売るテクノロジー企業」という点では同じです。インテルの作る半導体をBMWの車体に載せる。モービルアイの出番はどこだ?
インテルという企業
インテルはCPUを売るだけの会社ではありません。インテルが中心に据えるパソコン業界は、やや異質です。
PC業界を牛耳るインテル
CPUはパソコンの一部品に過ぎません。例えばノートパソコンなら、マザーボードがあり、そこにCPUを載せ、冷却ファンを付け、各種半導体部品を実装し、画面やキーボード、カメラにマイクにスピーカー、アンテナ、USB端子、バッテリーや充電回路などなど様々な部品を筐体に収めます。そしてWindowsなりmacOSなりを搭載、各種ソフトを含めて「NEC LAVIE」や「東芝 dynabook」などのブランドで販売します。
ですが、パソコン業界を実際に牛耳っているのはインテルです。次にどんなCPUにどんな機能を付け、どんな形状の製品を流行らせるのか、決めているのはほぼインテル1社です。薄いノートパソコン「Ultrabook」や画面とキーボードが分離する製品などを流行らせたのもインテルです。
世界中のパソコンのほとんどにインテル製CPUが使われています。技術力でも供給能力でもほぼ独占状態にある企業に対してどこも文句が言えないわけですね。
自動車業界には無いタイプのメーカー
自動車業界でこんなことあるでしょうか? ロータスのスポーツカー「エリーゼ」はトヨタのエンジンを積んでいますが、トヨタがロータスの作る車に口出ししているでしょうか?
自動車業界にインテルのような企業はありません。「ディーゼルエンジンは○○しか作っていないからそこから買うしかない」みたいなことはありませんよね。提携や提供はあっても、市場をコントロールしているのはせいぜい石油価格くらいのものです。
自動車業界に入り込むインテルの狙い
パソコンやスマートフォン、それにインターネットが普及し、一部のマニアのものだった「パソコン」がどこにでもあるようになって久しいです。性能アップもあまり求められなくなり、ある種エアコンや冷蔵庫などの白物家電に近いような存在になってきました。
インテルは次の大物として自動運転車を狙っているのでしょう。高温や振動に晒される過酷な環境で、高度かつ複雑な計算を高速に処理しなければいけません。その上フリーズや計算ミスは人命に繋がるため、信頼性が最も重要になります。この業界でインテルが高度な技術力で圧倒すれば、自動車の世界もインテルが牛耳るかもしれません。
聞いたこともないメーカーの冷蔵庫でも安ければいいかという考えもありますが、聞いたこともないメーカーの自動運転車なんて怖くて乗れませんよね。「インテル」はその名前で信頼を得ることができます。
モービルアイの立場は?
翻ってモービルアイです。小さな会社ながら自動運転技術では他社を圧倒するほどの力を見せています。
巨大企業インテルがこの技術を自社のものにしたいのはミエミエです。
- モービルアイの処理アルゴリズムと専用半導体チップ、それにインテルのCPU
- インテルのCPUとインテルの処理アルゴリズム
後者の将来が来そうです。
まとめ
表面上は対等そうな「提携」という言葉になっていますが、企業の性格を考えるとインテルが自動車業界で存在感を示そうとしていることが見えてきます。この提携で基礎力をつけ、完全自動運転車を作るためのトータルソリューション(=総合解決策)を持って自動車界を引っぱろうとしているのではないでしょうか?
自動運転や電気自動車にコマを進めつつも、旧来のガソリンエンジン車で莫大な利益を上げているBMW。自動運転に必要な技術で業界をリードしつつも、自動車メーカーの一取引相手でしかないモービルアイ。PC業界を牛耳る技術力で自動車業界すらも市販しようと目論むインテル。
この3社が組めば早々に完全自動運転車が実現しそうな感じはしますが、いずれは揉めそうな予感がします。